誰よりそばに

雨宮 小雨

第1話 誰よりそばに

 君が笑うと温かくなる。

 ニコニコ笑いながら、大声でぼくの名前を呼ぶから、嬉しくて嬉しくて、ついつい全速力だよ。あまりの幸福感に、ぼくはいつだってそばにいようと思うんだ。



 涙でぐしゃぐしゃの顔してぼくを呼ぶ日も、安心してよ、ぼくは君にそっと寄り添うから。

 呟くように、か細い声でぼくを呼ぶ君。

 ぼくの肩でも、首筋でも、好きなだけ涙と鼻水を拭えばいいよ。

 遠慮なんていらないんだ。



 時にはヒステリックにぼくを呼ぶ君。

 びくびくしながらも、そんな君だってチャーミングだと思うぼく。

 この愛はマリアナ海溝より深いから、怖がらないで、いつだって八つ当たりしていいんだよ。どんなときでも受け止める度量くらいはあるからね。



 さあ、今日も一緒に遊ぼう。

 なにをして遊ぼうか?

 お天気だからお散歩デートがいいな。

 それともお菓子を食べながら、日向ぼっこでもするかい?

 一緒に深呼吸しよう。

 秋の匂いがしそうだね。



 ほんとは苦手だけど、たまにはシャンプーもおとなしくされてあげる。

 うるさいドライヤーも、君の手櫛なら我慢できるよ。

 でもそのあとは、いつもより優しくして。

 ぼくを甘く慰めて。



 いつかふたりがもっと年老いて、いつの日か、永い別れが訪れるかもしれない。

 そのときの君の姿を、想像するだけでも胸が潰れそうだよ。

 でも思い出して。

 ぼくにはいつだって君が一番。

 それはずっと変わらないから、その日がきても、いつまでも悲しまないで。

 最後は、ぼくの大好きな笑顔でおくって。



 さあ、今日も一緒にいよう。

「まるで騎士のようだね」と笑われても、君から離れない。

 誰よりそばで、君に寄り添う。

 そろそろ冷えてきたから、ぼくを抱いて暖まるといい。

「うれしいの? しっぽをそんなにパタパタしちゃって」

 と、君はぼくに頬を寄せる。

 君の鼓動が伝わると、ぼくはほんとに幸せ。

 夏場は少し暑い毛皮も、こんな夜は最高でしょ。

 いつもみたいに優しく撫でて。

 君の温度が伝わると、ぼくはほんとに幸せ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰よりそばに 雨宮 小雨 @tameiki-to-kibou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ