砂漠渡りと長月

余記

山を喰らうモノたち

「人は皆、平等だって言うけど、こんなの絶対に不平等だよ!」

これは私の魂の叫びだ!

私の眼下にそびえる絶壁ぜっぺき

対する彼女の前には、テーブルの上に乗って、たゆんと揺れるマウンテン。

そう。これは胸の格差社会なのだ!


例えるならば彼女のは天をおおうシャツの雲を突き破らん限りにそびえ立つ乳の山脈。

一方私のは、どんより空をおおう雲の下に横たわる不毛の砂漠。

なぜだ!なぜ天は人の上に人を作るのか?


真夏日のじりじりと焼けるような日差しを避けて、都会砂漠の中、オアシスのごとたたずんでいる喫茶店に逃げ込んできたのは今から20分ほど前。

夏休み、ちょっと大学に顔を出すつもりがこのおっぱいお化けに捕まって数十分。

なぜか一緒に行動する羽目に。

いえ、別にこの子が嫌いなのではありませぬ。

誰にでも分けへだてなく気軽に話しかけてくるこの真由美ちゃんは美人で可愛くて朗らかで私の周りの人たちにも大人気だ。

ただ、私はこのおっぱいが嫌いなだけで。


「どうしたの?千秋ちゃん?」

まんじりもしない私に気を使ったのか、目の前に山の如く聳え立つパフェを掬う手を休めて、こくりと首を傾げつつ宣う。

一方、私の目の前にはどこまでも続く砂漠を思わせるような、平たい黄金色のパンケーキ。

その時、私に電流走る!

そうか!私もマウンテンを食べればいいんだ!

そうか、私がマウンテンになればいいんだ!


「すいませーん。私にも、この子と同じ特盛パフェを!」


そう。山が欲しければ山になれ。

私は山をたいらげる山と化した。

この、ナイチチ砂漠をうるおい豊かな山とする為に。


「すごい!千秋ちゃんも、この特大パフェが入るんだぁ」

嬉しそうに話す真由美ちゃん。

なんでも彼女はここの特大パフェが大好きで来るたびに頼むのだが、今まで一緒に来た子たちの中には、付き合ってくれる子がいないのでちょっと寂しかったとか。

「私がおいしいおいしいって言いながら食べてるとね、決まって一緒にいる子たちが皆、胸やけしそうな顔でこっちを眺めてくるの」

だから、一緒にパフェを食べられる友達が欲しかったの、とニコニコしながら話す彼女の笑顔は、砂漠に輝く太陽の如く眩しかった。

「今日から私たち、パフェ友だね」

こうして夏休みの間、暇があれば真由美ちゃんに付き合う事になったのだ。

もちろん、山のようなパフェも一緒に。




長月の二十日ばかり過ぎた頃、ナイチチ砂漠を抜けた我々はぽっこりおなか山脈を発見した。



久しぶりに、真由美ちゃんと例の喫茶店で出会った。

ここしばらく忙しかったので実に久しぶりだ。


「どうしてこうなった!」

これは私の魂の叫びだ。

私の眼下にそびえる絶壁ぜっぺき

対する彼女の前には、テーブルの上に乗って、たゆんと揺れるマウンテン。

しかし、前回とは決定的に違うところがあった


砂漠を超えたところに現れるマウンテン

それは、ちょっとばかり机につっかかるぽっこりおなか。


「千秋ちゃんも、私と同じ特盛パフェにするよね?」

「いえ、今日はコーヒーだけにしておきます・・・」


あんなにパフェばかり食べてたらそりゃ太るよね?

でも、なんで彼女は?

「すいませーん」

以前より心持ちボリュームを増したように見える山を揺らしつつ、彼女はウェイトレスの子を呼び止めた。

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砂漠渡りと長月 余記 @yookee

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