マンションが送る鳥羽差市案内
オロボ46
ヴェルケーロシニによる案内
紋章。
それは、中世の魔女が使っていたとされる魔力を、紋章の形にして人の体や物に埋め込む技術。
世界中に蔓延した疫病がこの紋章の技術によって収まって以降、紋章は我々の生活に欠かせないものとなりました。
この
山に囲まれた地方都市であるこの鳥羽差市は、自然の美しさと活気ある街並みが詰め込まれています。
別名、紋章の街。
なにか心に残る何かという紋章を自身に残したいのなら、ぜひこの街にお越しください。この街では、目には見えない、名も無き紋章があなたの心に埋め込む力があるのですから。
申し遅れました、ワタクシはマンション・ヴェルケーロシニの管理人を務めています、“ヴェルケーロシニ”と申します。
え? どこから話しかけているのか?
どんな姿をしているのか?
いえ、あなたの目の前に写っているはずですよ。10階建てのマンションが。
ワタクシは人間ではなく、このマンションの建物に知能と人格を与えられた存在でありますから。これも紋章の技術のたまもの……ですね。
気を取り直しまして、ここからはワタクシがこの鳥羽差市の建物の紹介をさせていただきます。
短い時間ですが、どうぞ最後までおつきあいくださいませ。
――マンション・ヴェルケーロシニ――
まずはワタクシのことについてお話させていただきます。
このマンション・ヴェルケーロシニでは、住民のみなさまがこの魅力ある鳥羽差市で過ごす人生を快適に過ごせるようにサポートをさせて頂きます。
階層は都市部のマンションよりも低い10階建てでございますが、マンションは背の高さで全てが決まるわけではありません。
部屋はすべて防音仕様。部屋で騒音を出しても隣の部屋には一切の音が漏れません。たとえ10人集まって一斉に叫んでもです。
空調も部屋に埋め込んである紋章で自由に操作ができ、四季に限らずお好みの空調で過ごすことができます。
そしてなんといっても、信頼できる防犯システム。このマンションは犯罪被害防止の点で日本一と認めてもらっております。
このワタクシ、ヴェルケーロシニは住民のみなさまを人の姿をした害ち……コホン、泥棒や不審者から守って見せます。
余談ですが、このマンションはあの紋章ファッションデザイナー兼動画投稿者の
いつも姿の紋章で見た目を変えている彼も、このマンションで快適に過ごさせてもらっていると伺っております。
――阿比咲クレストコーポレーション――
次にお話しますのは、紋章を活用した商品を生み出すことでおなじみの、“阿比咲クレストコーポレーション”でございます。
世界初、紋章の技術を商品に取り入れた会社である阿比咲クレストコーポレーションでは、今でもこの鳥羽差市に本社を構え、快適な生活を提供する商品を開発し続けています。
手のひらに埋め込んで使うスマホの紋章は、今や埋め込んでいない人の方が珍しいと普及してきました。その普及を助け、今でも最新の機種を生み出し続けているのもこの会社の功績といえるでしょう。
また、自転車の代わりとして生み出された移動用ホウキ……街中では、阿比咲クレストコーポレーション制の移動用ホウキを見ない日はないでしょう。
――喫茶店セイラム――
ここまでは街中の施設についてお伝えしましたが、鳥羽差市の魅力は山の中にも存在します。
街を囲う山の中に立つ一軒の喫茶店……“喫茶店セイラム”は、知る人ぞ知る鳥羽差市の注目スポットでございます。
ちょっぴり忘れっぽい店主が入れるコーヒーは、まさに至福の味……たとえトラブル続きで何日も頼めないことがあっても、諦めてはなりません。森に囲まれた喫茶店で飲むその味は、他のどこの喫茶店でも味わえないのですから。
――最後に――
いかがでしょうか? このご案内が、あなたと鳥羽差市を繋ぐきっかけになれば幸いです。
さて、ワタクシは昨日やってきた新たな入居者様に挨拶をする準備をしなくては……二足歩行のウサギの「マウ」様に、不思議な見た目をした「イザホ」様……
あの方を見ていると、オーナーが言っていたあの事件を思い浮かべるのはなぜでしょうか……?
!! 失礼しました、この言葉はどうかお忘れを……
……いえ、せっかくですから、ちょっぴり不謹慎なお話をしましょう。
現在、鳥羽差市ではある少女の失踪事件のウワサで持ちきりです。警察はもちろん、この街では名物となっている私立探偵までが捜査に乗り出したようですが……
ワタクシ個人の意見といたしましては、この事件、ただの失踪事件では終わらないような気がするのです。
そういったお話に興味がある物好きな方も、ぜひ鳥羽差市に訪れてみてはいかがでしょうか?
【章紋のトバサ】
マンションが送る鳥羽差市案内 オロボ46 @orobo46
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます