私才能ないんだって

「楓姉ちゃん……」

俺は楓姉ちゃんを見てつぶやく。まさか腐女子だったとは。

「腐女子って言わないで! 言うなら貴腐女子って言って! 貴腐ワインみたいに!」

うつむきながら楓姉ちゃんは俺に同人誌の表紙を見せる。


俺はそれを手に取って見る。

「うあぁ……」

楓姉ちゃんは俺がペラペラページをめくっているのを黙って見ている。


「なんかさ。最初はビックリしたけどよく出来てるね。これ」

俺は笑顔で言った。


「あっ……うん」



俺たちはショッピングモールから出た。そして二人歩いている。

「しっかし、楓姉ちゃんがあんな本を書いてるとは思わなかったよ。フォーチュンクッキー楓さん」

俺は笑顔で言う。フォーチュンクッキー楓とは楓姉ちゃんの同人誌でのペンネームだ。


「うっ……」

その呼び方で呼ばないで。困ったように楓姉ちゃんは言う。


「そっか。楓姉ちゃん。物語を作る才能はあったもんね。俺将来楓姉ちゃんが絶対に漫画家になって世界を変えると思ったもん」

俺はニカッっと笑った。


「まぁ書いてるのは自費出版の同人誌だけどね」

と楓姉ちゃんは笑った。


「でも、ファンがいるんだろ。見てくれて面白いと思ってくれるファンが居る。それで良いじゃん」

俺は言った。


「うん。まぁそうだね」

楓姉ちゃんはニコリと笑った。暗闇の中俺たちはショッピングモールの近くの川に来ていた。川の流れる音が聞こえる。


「でもさBLの世界も結構厳しくてさ」

楓姉ちゃんが歩きながら言う。


「編集部に持っていったんだよね。そしたら才能ないって言われちゃった」

とニコリと俺の方を見て言う。


「才能ない……誰だよ! その編集者! 適当なこと言ってんな! 気にすることないよ!」

俺は言う。


「でも、その人の指摘って結構鋭くてさ。自分でも納得しちゃったもん。今までは好きな人たちだけ集まって見ていたからさ。みんな私の作品を褒めてくれて。でもプロから見たら私の作品なんて全然駄目だったんだね」

と悲しそうに楓姉ちゃんは言う。


「……っ……でも才能ないのは絶対に違うよ。そりゃ作品の駄目なところを直したかったら直せばいいと思うけど、そうやって才能ないっていうのは言い過ぎだよ」

俺は言った。


「ありがとう。私のために怒ってくれてるんだね」

楓姉ちゃんは言った。


えっ? そんなんじゃ……


「私の同人仲間もみんな怒ってくれたよ。みんな気を使ってくれてさ。でもそれじゃ駄目なんだって分かった。好きな人同士で見せ合うのも限界があるんだって。色んな人に見てもらわないと。それで厳しい意見にも耐えなくちゃいけないって思った」

楓姉ちゃんは言う。


「でもさ。そんな時に縁談があって。相手の家族、結構古風な考え方の人みたいでさ。私を家族に入れるんだったら、今書いてるBLはやめなさいって言われちゃった」

と楓姉ちゃんは言う。


「……!」


俺は無言になる。


「えっ? そんな! 好きでやってることだよね。それをやめろって無茶苦茶じゃん」

俺は言った。


「そうだねー。私もそう思うよ。でも此の世の中は割とその無茶苦茶がまかり通るのさ。なんせあっちの方が立場が強いからね。向こう側からしたら若いだけの女が変な趣味を持って家族になろうとしている。だから、それを直しなさい。あなたのためにも、みんなのためにも良くないって」

楓姉ちゃんは言う。


「楓姉ちゃんはそれでいいの?」

俺は聞いた。


「んーー。なんかどうでも良くなってきて。自分の才能を活かそうと必死に頑張ってきて、それでさ才能ないって一言で切り捨てられてさ。結構病んだよ。それで向こうの都合で急に縁談が決まって。私の人生って私のものじゃないんだなって思った」

楓姉ちゃんは言った。


「え? どういうこと?」

俺は聞いた。


「だから人ってさ。人生において頑張って変えられるのはちょっとだけなんだよね。才能ある人、運が良かった人は自分の運命を変えられるかも知れない。だけど、ほとんどの人って駄目じゃん」

楓姉ちゃんは笑っている。


「子供の頃の夢を叶えた人ってどれくらい居ると思うのさ。みんな現実に打ちのめされて消えていく。夢ってチョウチンアンコウみたいなんだよね。フラフラってそっち側にいくとバクッっていつの間にか食われている。そうやってさ。自分に才能もないのにひたすら夢にしがみついて歳を取っていくなら……もうすっかり諦めて引退して結婚した方が良いって思って」

歩きながら楓姉ちゃんは言う。


「……」

俺は無言だ。


「私は幸せだよ。こんな私でも結婚して欲しいって言ってくれる人が居るんだから」

楓姉ちゃんは言う。


「夢に破れても逃げ場がある。誰かが逃げさせてくれる。そんな色々な人の思いに触れたらさ。結婚なんてしたくないって言えないよ」

楓姉ちゃんは俺に笑いかける。


「でもさ可哀想だよね」

俺は言った。


「え? 可哀想って」


まだまだ続きます!

面白いと思った方、ハートフォロー★お願いします!


新作書きましたので読んでください!



うつ病でボロボロだった俺のところに姉妹が二人看病にやってきた。で、二人とも俺のことが好き?うえええええ!!?


https://kakuyomu.jp/works/16816700427633060712/episodes/16816700427633140355

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る