第7話 俺たちの戦いはこれからだ。(いい最終回だった(笑)

 私達が外に出ると丸い月が表れた。今の時間は夜らしい。

 そんな月明かりに浮かぶ私達の今迄いた場所はどうやら古い遺跡の様だった。


「あら、夜なのね。何時位かしら?」


「そうですね。恐らくですが鐘九つよりはもう鐘はなりませんので、それ以降ではとしか…」


「あら、時計は無いのね。この世界」


「とけい…でごさいますか?」


「ううん。知らなければいいわ。忘れて」


「かしこまりました」


「さてと、どっち行けばいい?」


「はい。方角的にはあちらの背の高い木を目指す状になりますが、しかしこの時間に森を越えられるのは些か無謀かと。ここは暫しこの遺跡で朝を迎える方が宜しいかと愚行いたします」


「そう?でも面倒事は早目に終わらせたいのだけど」


「はあ。ではお守りする自身がございませんが、いざと言う時は僕を囮にされて下さい」


「はあ?何故ルティーを囮にしなければならないのかしら?」


「それは、この森は夜行性の狼などが多く居りますゆえ」


「狼?なら問題無いわ。ほら案内して」


「かしこまりました」



 こうして、私達は夜の森をお散歩しつつ目的地の屋敷のある町へと向かった。


 途中で狼やら熊やら虎やらが出てきたけど、私が人睨みすると慌てて逃げて行った。


 流石の野生の勘。

 上位の生態系には敏感の様だった。


「お嬢様。どうやら夜は城門が閉まっているようです」


「あ〜。そういうのあるんだっけ」


「南門まで回れば朝一の開城待ちのキャンプに混ざれるかもしれません」


「ええ〜。結局待つの?面倒くさい。いいから行くわよ」


「え?え?お嬢様?一体どちらへ!」


 喚くルティーの襟首を掴み、城壁に足をかける。

 そして、そのまま城壁の壁を歩いて登る。


「お、お嬢様!」


「うるさいわよ。夜なんだから静かにしなさい」


「首!首がしまって!」


「あら。ごめんなさい。この世界の人間は壁を歩けないのだったわね。忘れてたわ」


 そう言って腋に担ぎ直すと今度はワタワタし始めた。


「今度は何なの?」


「いえ!その胸が!いえ!」


「本当に何なの?」


 そのままルティーは沈黙して動かなくなってしまった。

 まあ、運び安いからいいけど。


 城壁を渡り終えると地面に着いてからルティーはぐったりしていた。


「ルティー。いつまで腰を抜かしているの?早く案内なさい」


「ふぁ!ふぁい!」


 ダブダブの服の裾を再び捲りあげ、ルティーは元ご主人様の屋敷に向かう。


「こちらでございます。お嬢様」


「ありがとう。ルティー。あら、思ったより小さい屋敷ね」


「ご主人様達は遺跡探索の為に此方の御屋敷を購入されましたので本邸は別にございます」


「あら。ならば別に気にしなくて良いわね。面倒くさくなくて良かったわ。ルティー、貴方はしばらく此処で待ちなさい」


「お嬢様。屋敷内の案内はよろしいのでしょうか?」


「要らないわ。因みに中に誰か居るのかしら?」


「邸には恐らくご主人様の買われた女性が何人かいらっしゃるかと。使用人として連れて来られたのは僕だけですので」


「そう。理解したわ」


 屋敷の門を抜け、扉に触れトレースしていく。

 生命反応が微弱ながらあった。


 中に入り、部屋入ると何度も痛めつけられた痕のある裸の少女が2人、床に倒れていた。


「この子はもうダメかしら?」


「此方は、トレース」


 結果として1人は息絶え、もう1人は処置しなければもって数分の命であろう事だけはわかった。


「はあ〜。運が良いのか悪いのか。全く面倒くさいわね〜。これも巨悪を断つ為の投資になるのかしら?」


 もう一度ため息をはいてから無事な方の彼女に触れる。


「セット・メディカルケア・スタート」


 処置が終わると取り敢えず彼女をシーツで纏、肩に担ぐ。


「セット・アブソリュート・スタート」


 そして、屋敷内とその周辺の生命エネルギーを回収し終える。


「セット・リサイクルコンデション・スタート」


 屋敷全体を粒子分解し収納する。

 部屋が2階だった為、足場を失い落下し始めるが重力変数を操作しフワリと着地する。


「さて、ルティー」


 後ろで立ち尽くしているルティーに呼びかける。


「なんでございましょう。お嬢様」


「貴方、これからどうしたい?」


「どうとは?」


「これから自由の身になるのだから身の振り方を考えなさいと言っているのよ」


「僕はお嬢様に忠誠を示したものでごさいます。お嬢様と共に何処までも」


「ああ、そうだったわね。バインドコード・リキャスト」


 パリンと割れる様な音と共に元ルティーがキョロキョロし出す。


「ねぇ、それで貴方。お名前は?ポーターで良いのだったかしら」


「え?え?あ、いえ!で、ですから先程も言いましたが、ポーターは役職名で…その、名前は…名前…その、ありません」


「あらそうなの?親とか育てられた所では呼ばれなかったの?」


「いえ、その……ハル…と」


「そう。ではハルト、貴方これからどうする?」


「えっと、どうするとは?」


「貴方は自由の身になったわ。やりたい事やしたい事があれば少しは援助するわよ」


「僕のしたい事…ですか?……その、出来れば、育ててくれた孤児院に恩返ししたいです」


「あら、良いじゃない。ならこれを持っていきなさい」


 そして、先程の屋敷や屋敷内を返還してこの世界の貨幣に換えた中から3分の1程取り分けて袋に入れて投げ渡す。


「うわ!重っ!」


「それで暫くは持つでしょ。それを生かすも殺すハルト次第!だから頑張りなさいなハルト!」


 そういって私はハルトに背を向けて歩き出す。

 朝焼けが拡がりもうすぐ夜が明ける。


 私の旅立ちを祝福するか様に朝日が顔を覗かせた。



 ◇

 ・

 ◇



「…ハルトじゃなくてハルなんだけどな。うん。でも僕はあの人のお陰で自由に生まれ変わったんだ。うん!これから僕はハルトだ!」


 そう言って僕も故郷の町へ向かう為、城門を目指した。


「ああ、そう言えばあの人の名前、聞きそびれてしまった。……ありがとうも言えなかったよ。……名も知らぬ美しい人、この恩は一生忘れない!」

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異世界幼女とブリットクリエイターの僕のお話。 no.name @fk2310

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