第84話 夏は成長の季節

8月になって、私たちの夏休み授業もまもなく折り返しだ。

真夏は様々な植物が成長する。ギラギラと晴れ、雨が降り、植物にとってはパラダイスだ。そのパラダイスのおかげでできた日陰が、暑さに負けそうな人を助けてくれている。

皆で過ごす夏は毎日充実しているが、体感よりも早く時は流れて行った気がする。いつもと変わらない5人で通学、いつもと変わらないクラスメイト、いつもと変わらない授業が終われば、いつもと変わらないランチから遊びに出かける。


本来土日は授業がないが、8月最初の土曜日はオープンスクールの手伝いのためにみんなで学校へ行った。私たちの学校は大人気の私立ということもあり、県内各所から中3の子達が来ていた。男子は見た感じあまり変わらないが、女子は地方ごとの標準の夏服からオリジナルの夏セーラー服まで様々なバリエーションがあった。無論、私の住む市内にある学校なので、1番見かけるのは私も着ていた標準服のサロペットスカートの制服だ。

そんな格好に関係なくみんながみんな少しでもいい体験をしようと目を輝かせていた。見慣れた教室に私たちと全く違う制服を身にまとった子達が座っている様子は新鮮だった。

やることは意外に多い。入場する子達の案内から、各教室への誘導、校内見学の案内などこの慣れ親しんだ校舎を、慣れ親しんでいない中学生を時折案内しながら歩き回った。そのためいつものように5人一緒にとはいかず、休憩時間以外で顔を合わせる時間すらなかった。

ボランティアではあるが、学校が大好きな私たちにとっては何も面倒なことはなかった。

まだ昼間のような位置に太陽がいる17時には片付けも終わり、クオカードを貰ってから軽い打ち上げに行った。これもひとつの楽しみ方なのだ。中学生対象の部活動体験のために学校に来ていた陸上部の友人も付いてきてくれて、いつもより一層盛り上がった夜だった。


次の日はクリニックに行った。いつもは制服で行くが、今回初めて私服で行った。呼ばれた訳でもないし、体調不良があった訳ではないが、しばらく忙しくていけていなかったのが事実だ。軽い近況報告のためだった。

診察室に案内されたが、明らかにいつもと違う部屋であった。入るとそこには今まで私を担当してくれた男性医師ではなく、ベテランの雰囲気が漂う女性医師だった。私が完全に女性に移行したことから、診る人も女性にするという性別への配慮だった。そのため寂しい気持ちもあったが、引き継ぎはしっかり行われていて不便はなかった。

私は素直に、しっかり身体が成長していることを話した。もう痕跡以外に私の男の子の時の要素はどこにもなく、逆に女性としての発達は普通の女子達に追いついていた。ホルモンや遺伝子は本当に侮れない重要な要素だ。

外見上のことは見れば分かるのだが、内面は自覚症状と検査をもってしなければ分からない。直ぐに検査に移った。

どうせ変わらない、そうとばかり思っていたが新たな事実が発覚した。私の成長は中身も完全に歳に追いついて、ついに子供が産める身体になっていた。ここまで来たことでようやく完全な女性の仲間入りをした気がした。

先生は私の様子を深く伺ってきたが、その報告は嬉しいものでしかなかったために素直に気持ちを伝えた。


そんな気持ちのまま月曜日を迎え、学校で4人に報告した。やっと仲間入りできたと話すと、何言ってんの、セーラー服着てきたあの日からずっと仲間でしょ。という1番幸せなツッコミを受けた。

しかし清々しい気持ちのまま授業とはいかず、検査時の投薬の影響で眠気が襲ってきた。隣の友人に適時起こしてもらいながら、3限目の後半にようやく眠気がとれたのだった。授業後に遊びに行く予定だったが、みんなが体調を考慮して中止を決断してくれた。おかげでかなり身体を休められた。

次の日からはまた元気に登校できたので、いつものように終わってからリベンジで遊びに行った。そんな夏の出校日も、この週末の実力テストで一旦締めくくられる。

このテストは成績に一切考慮されず、苦手を見極める自己資料として用いるものだ。しっかり勉強に取り組んでいた私たちには容易いもので、当日中に返却された解答用紙には私の知識量を表すように丸の印が沢山着いていた。

当然のように見比べ大会をすると、間違えた箇所が全員ほとんど同じで大笑いした。常日頃一緒に勉強することの落とし穴だろうか。


夏の緑の木陰から別の木陰に、暑いため自転車に乗らず押しながら学校をあとにした。夏は成長の季節だ。勉強も、交友関係も、身体も、成長したからには枯らさないでいたいと思った。

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