第80話 雨と仲良く
雨は嫌いだ。雨が降ると多少なりとも通学が面倒だし、気分もほんの少し落ち込むから。
でも日本には梅雨がある。字の通り雨がよく降る季節だ。そんな時期のある国に住む以上雨とは上手くやらなくてはならない。
それにしても今年は例年より前線が早く、梅雨入りも早ければ量も凄まじい気がする。
私の予感は正しかったようで、朝の報道番組でそう言っていた。
朝は晴れていても帰りは雨、またその逆もあり、地面が黒くない日がなかなか訪れないようになってきた。
そんな中でも私たちの日常は続き、私たちのみならずクラス全員に若干気疲れしている様子が見て取れた。期末テストはちょうどこの時期を抜ける頃にあるので、それだけは気を抜かぬように頑張っていた。
そんな私の様子を見た母が、梅雨明けまで雨でも晴れでもみんなまとめて送迎すると言ってくれた。仕事のスケジュール的にも全く無理がないため心配はいらないとも言ってくれた。
これからしばらく濡れない楽な通学になるのだと考えるとワクワクしてきたし、4人とも喜んでいた。
それは次の日から早速始まった。当たり前のように降りしきる雨が、私たちの身体ではなく走る鉄板に当たっている。普段なら嫌になって聴くに堪えないその音が、今日は心地よい気さえした。
所要時間自体は誤差程度だが、行くまでにストレスがないし、学校に着いてから制服が濡れないように気を遣ってレインコートを畳む手間もない。
何よりみんなで顔を向かい合わせにして好きに話しながらの通学は、電車通学でも実現しない夢のような時間だ。
そんな中で過ごす日常は快適だった。小テストにも授業にも体育にもいつも通りに挑んだが、それでも普段より疲れ方がいい意味で違った気がした。
夕方いつも通りに自習をして宿題を片付け、夕陽が出ているであろう午後6時の灰色の空の下を車で下校した。
明日もまた、こんなにも楽しい一日を過ごせるのかと思うと既に楽しみだ。一日目からそう思わせてくれた母には感謝しかない。
ただ今日は夏服で行ったせいで肌寒く失敗だと感じたので、次の日からは再度中間服に切り替えることにした。
それから暫くはそんな日々が続いた。稀にある一滴も雨が降らない晴れの日でも車で送迎してもらった。おかげ様で例年より明らかに激しい梅雨を健康に過ごせそうだ。
時折帰り道に私の母がコンビニデザートをご馳走してくれたり、放課後は友人の買い物にみんなで付き添ったりと私たちなりの楽しみ方が増えていった。
ごく普通の女子高生の通学手段としてはやりすぎな程の贅沢さだったと思う。いっそのこと卒業までこの形での通学でも構わないようにまで思えた。
それでもやっぱり、梅雨が明けていつも通りに戻ればそれがいいと思えるのかもしれない。
幸運だったと言うべきか、始まって1週間くらいの時に私を含め全員に周期が来てしまったが、自転車を漕がないことでいつもより随分楽なまま済んだ。
寒いから中間服に戻した数日後に暑くなり夏服に切り替える。それなのにまた寒くなって中間服に戻すローテーションには嫌気がさしていたが、考えてみれば去年のこの時期だって似たようなものだったと思う。部屋の壁面にはこの時期ならでは両制服が並んでいる。まるでオープンスクールの際の制服紹介コーナーだ。
最終的に普段は一切使わないリュックを持っていき、着ない方の制服を中に完備するまでしていた。
梅雨が過ぎ去ると共に、私たちの自転車通学が再開した。早朝なのにもう明るく、夏が来たと言わんばかりの晴れきった空の下を白い制服の5人で通学した。汗も出るし、微かに夏の花や生き物の姿が見える。先日みんなで買った制汗剤はもう必須になってくるだろう。
母は梅雨明けがニュースで宣言された日に、今後雨が降る日にはみんなまとめて送迎すると言ってくれた。もう二度とあの贅沢は出来ないと思っていたのでかなり嬉しかった。
それから1週間もしないうちにその機会は早速訪れた。早朝から雨が降り続いており、私は母に聞くよりも前にみんなに連絡を入れた。私たちの車通学が1日限定で復活したのだった。
私は雨が好きだ。
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