第79話 ホワイトデイズ
時は連休明けから少し経った5月半ばだが、この時期になると昼間はかなり暑くなる。それでも登下校の時間はまだ肌寒いため中間服で一日を過ごしている。暑くなれば袖を捲ればよいと考えていた。私たちの制服は、冬と夏でスカートのデザインは変わらないようになっていた。そのためこの時期からはさりげなく夏のスカートを穿いていた。
そんな朝夕の肌寒い感覚が無くなる頃にはテストがやってくる。そこに向けて私たちのいつもの放課後自習も少しづつ長くなって行った。
私たちの自習では、必ずその日の宿題をやって帰るようにしていた。そのためこの頃は家へ帰ってからペンを握ることなどほとんどなかったものだ。
そんなある日、例によって大雨が降ったためにさすがの私たちでも自転車通学を諦めた日があった。まだまだ梅雨と呼ぶには早すぎる時期だが、雨の匂いとやらが充満するほどだった。この日は私の母がミニバンで全員を拾い、優雅に車で通学させてもらった。今後あるか分からない珍しい風景だったので、後ろに2人と3人に別れて座った私たちは、記念撮影までしてわずか20分の通学を楽しんでいた。
しかもこの日は気温もかなり下がるオマケ付きだったので、私はブレザーと冬スカートで完全冬服スタイルを選んだ。やはりと言うべきか迎えに行った4人に全員が見事に冬服スタイルだった。もう慣れたものだが気が合いすぎている。
いつも通りの小テストを終え、朝の授業後に私たちはいつものように廊下のベンチに5人並んでガールズトークを始めた。
暑がり男子もさすがに今日の気温には寒いと感じたのか、見渡す限りほぼ全員が冬服で登校していた。
ふと話しながら足元を見た友人が指摘してくれて気付いたが、私は今日スニーカーを履いてきてしまっていた。言うまでもなく、本来ならば学校指定の茶色いローファーを履いていなければならない。
雨でぼーっとしていたのだろうか、明らかに履き心地が違うはずなのに私は気付かなかった。
それならば一日中どの先生にも気づかれぬように頑張ろうと変に気を引き締めた。結局1限目は何とかパスしたが、2限目の化学の先生にはあっさりと指摘されてしまった。
特に怒られることなく気を付けるようにと言われただけで済んだが、明日からちゃんと玄関で足元を確認しようと思った。
この日もみんなで一緒にいつも通りの一日を楽しみ、雨が止んだ夕方6時まで勉強して母に迎えに来てもらった。もちろん帰りもみんな一緒だ。
雨が止み太陽が出ると、気温は湿度と共に急上昇した。こうなればさすがに冬服では暑かったので、自習中から私たち全員が袖捲り中間服スタイルだった。その影響か友人の1人が冬服の上着を忘れ、スマホまでその中にあると言い出したため、迎えの車は急遽とんぼ返りした。
幸い学校から3分くらいしか走っていなかったし、教室が施錠される前だったようで回収はスムーズに済んだ。
そんな帰り道も車ならあっという間で、明日も雨だったら迎えに行くと伝え、じゃんけん負け順に4人が降りていった。
テスト1週間前となる次の日には普通に太陽が顔を出し、私たちのいつもの自転車通学が戻ってきた。ブレザーと冬スカートはお留守番で、夏スカートの中間服スタイルをチョイスした。もちろんこれも全員おそろいだった。
安全運転で学校に着き、今日も1日頑張ろうとリボンをつけながら気合いを入れた。
この日は男子はほぼ全員が夏服、女子も3人に1人は夏服だ。私も中学生の頃のような暑がりなら夏服だったのかもしれない。でもそれも、身体の変化とともにいつの間にか改善されていた。
私も知らぬ間に普通の女子になったのだろうか。
テストが帰ってくる頃にはいよいよ私たちも夏服へ移行した。今回ばかりはさすがに話し合って、クリーニングを済ませた週明けからみんなで夏服になった。
見渡せば近隣の高校の生徒も、中学校の生徒も、もちろん私たちの高校も、ほとんどの制服が次第に紺から白へと移り変わっていた。
私はこの夏の足音を感じる制服移行期間の終盤をホワイトデイズと呼んでいる。
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