第78話 頑張ったウィーク後半戦

ゴールデンウィークも残すところあと3日になった。今日は母方の実家へ行ってそのまま一泊する。

男の子だった頃はこの道のりを随分と長く感じていた。それも今では高速道路でたった1時間半の道のりだと思うようになっている。

悪く言えば楽しみを失ったことになるのかもしれない。でもこれは私の成長の証で、正しいスケールを理解できるようになったとも言える。


そんな大人びたことを考えていると、いつの間にか車は若干混みあった一般道に入っていた。私はこの時点で少し我慢していたので、直ぐに次のコンビニに寄ってもらった。

術後1年は少しトイレが近くなると言われていたが、それを最近になって痛感していた。

女性用が空くのを待つことおよそ100秒、中からよく見た顔の女の子がでてきた。

私がびっくりした表情を見せたその先には、同じくびっくりした表情のいつもの友人がいた。私は一言挨拶を交わし、直ぐに用を済ませて案の定待ってくれている友人の元へ小走りした。


彼女の家族もまた帰省中のようで、2人で飲み物片手に外へ出ると人目もはばからず両家で仲良く話していた。

家族ぐるみで何度も顔を合わせているので慣れたものだった模様だ。

結局のところ帰省する方面が同じなために偶然出会ったらしく、10分ほどの休憩を兼ねた会話の後にミニバン2台がそれぞれ出発した。

約束もなければ、予測すらできないタイミングでも会ってしまう私たちの縁は一体どれほど深いのだろうか。

もう離れたくても離れられないような感じすらしていた。もっとも、離れたいと思うようなことは絶対にないと思うが。


別れて20分ほどで母方の実家に到着した。私が小学生だった頃はいわゆる田舎だったのだが、新興住宅地の影響から10分歩いたエリアが繁華街となり、程よく中間を行くような快適な街になっていた。

その外れの住宅街の、新築に紛れてひとつあるのが築50年の祖父の家だ。

祖父はいつも新鮮な魚をそのまま買ってきては、自分で捌いて用意してくれている。私の魚料理好きは間違いなくここから来ている。

味を語るまでもない絶品で、毎年食べられる日を楽しみにしていた。食べてる瞬間が1番幸せそうで可愛いと、祖母に言われて思わず頷いてしまった。大変化を遂げてきた私のずっと変わらないもの、それは食への関心だ。


そんな楽しい食事の後はただただのんびりと過ごした。毎度姉も私も祖父とオセロ対決を挑んでは必ず負けている。もちろん今日も、私は全く有利な展開に出来ずに大敗した。

勝負も難しかったのだが、ネイルをつけた指でやるオセロは大変だったので二度とやらないと決めた。

しかし姉は、どこで身につけたか分からない戦術で緑色の正方形の大半を真っ白に染めて勝利した。私もいつか勝てるように、姉に教えてもらおう。

祖父は昔から、オセロに勝ったら高いものでもなんでも買ってくれると冗談のように言っていた。これがどうやら本気だったらしく、姉は数万円するネックレスを買ってもらっていた。その様子を羨ましく思いつつ、勝つ意欲が増した。そんな本気で楽しい時間はあっという間に過ぎ、2泊した後のこどもの日の昼には帰路についた。


次女としての私の初めての大型連休は、体も頭も使い切った日々だった。

でも不思議と疲れてはいなかった。

そんな帰り道もやはりソレは近く、行き道とは逆に高速道路に乗る前にコンビニに立ち寄ってもらった。

トイレに急ぐと、後ろから聞き慣れすぎている声がした。見慣れた顔もそこにはあった。2日ぶりの再会だ。

どうせ明日も会うというのに、今すぐに話したいことだらけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る