第76話 ミッションポッシブル
私たちには毎日ミッションがある。それは穏やかな自転車通学の後に間髪を入れずやってくる。朝一番の小テストだ。
授業でさえかなり早い時間から行われるというのに、その直前にある小テストはより一層の負担になっている。
確かに範囲は限られているし、勉強は寝る前と学校に着いてからやれば対応はできた。稀にほんの数点の不足で再テストになっていたが。
それでもなんだかんだでこのミッションを毎日乗り越えてきた私たちは、いつの日か点数比べでバトルしたりと楽しむようにすらなっていた。
下のクラスから上がってきた新メンバーは、いきなり当たり前のように始まるミッションにまだまだ慣れていない様子である。
寝る前の勉強を終え、明日英単語の小テストも大丈夫だ。そう思いながらそっと部屋の電気を消した。
翌朝、いつも通りに朝食と洗顔を終えてから制服に着替え、日がちょうど昇ったばかりの春空を見上げながら自転車を走らせた。
集合してからいつも通りに自転車通学をし、駐輪場から教室に向かった。駐輪場の出入口でおなじみの可愛い後輩と会うのもいつも通りだ。
いつもはまっすぐ教室に向かうはずが、今日に限っていつも使う通用口が何故か閉まっている。恐らく警備員さんの鍵の開け忘れで、私たちと後輩ちゃんは遠回りを余儀なくされた。結局自販機のエリアまで回らなければいけない事態になったが、飲み物を買って一息付きながらゆっくり教室に向かった。結果的にいつもより10分ほど遅く教室入りした。
そんなことをしていると、英単語の小テストの時間が近づいてきた。そろそろ最終確認をと、単語帳をバッグの中から出そうとした。しかし、それを触ったときにある独特の手の感触は手のひらをバッグの中のどこに動かしても感じられなかった。慌てて目視で確認するも、結果は同じだった。どうやら昨晩の勉強をストレッチしながらベッドでやったのが裏目に出たらしい。
私の判断は早く、すぐさま1番近い友人の元へと行って単語帳を見せてもらった。友人は忘れた私を笑い飛ばして冗談混じりに、これで私が再テストになったらブラウニー奢りだからね。と言いながら見せてくれた。開始ギリギリまでそこで粘ってから本番に挑んだ。スラスラ解けたつもりだったが、後半は雲行きが怪しくなっていて私は一気に焦りを覚えた。
私の点数では見事に再テストになり、見せてくれた友人の方に小さくバツを作って結果を開示した。すると友人から、私を優しく睨むような目つきと同じポーズが返ってきた。
普通にやれば間違いなく合格できたと思うのだが、焦りはどうしてこうまでも人をダメにしてしまうのだろうか。
授業が終わって私は真っ先に、ブラウニー買いに行こう、と友人を誘い出した。
やはり3人も揃ってついてきたので、いつも通りに5人で売店に行った。私はブラウニーを2つ買って、そのうち1つを手渡した。
焦っちゃったな、2点足りなかった。貸してくれたのにごめんね。と言うと、再テストまで不合格だったら見捨てるからね。とブラウニーを頬張りながらジョークの口調で言われた。
結局休み時間に単語帳を貸してくれたおかげで、再テストではお互いに一発クリアを収めたのだった。
こんな苦労はしたくないし、友人とはいえ迷惑をかける訳にはいかない。もう忘れ物はしないと心に誓った。
このミッションはそう難しいものではない。毎日真剣にやっていればたとえ忘れ物をしていたとしてもクリアできると思う。
毎日満点をめざして、今日も私たちは眠い目を擦りながら小テストに真剣に臨んでいる。
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