第72話 また春が来る
来年度の所属クラスの発表が、修了式を目前に控えたある日に行われた。無論私たちはクラスを落とされる心配などなかったので気楽だったし、実際誰1人落ちなかった。
私は出席番号が比較的早い方なのでみんなを駐輪場で待っていた。その最中、陸上部の友人が部活へと急ぐその足を止めてまでクラスに残ったことを報告してくれた。
この日は放課後の授業もなかったので、5人それぞれへのお祝いにカラオケへと急いだ。発表に想像以上に時間がかかってしまったため、駅前までの数分を全力で漕いでいった。
部屋に入り、息がいち早く整った私からマイクを取って歌い始めた。今日は何より全員から全員へのお祝いの会なので勝負もなしの短時間カラオケだった。だから気楽に歌えたし、声も潰れずに済んだ。晩御飯くらいの時間になったが、明日も朝から学校がある平日ということもあり、みんなで真っ直ぐ帰宅した。
季節はもう3月半ば。マフラーを巻いていたが首元が暑くなってきた。そのため信号待ちの間に解いて鞄に放り込み、代わりに鞄の端に着けていたリボンを首元に装着した。よく考えてみればこの時既にストッキングも中が蒸れていた。
日々の生活が忙しすぎて、私は季節の移り変わりにすら気付いていなかったようだ。今はもう冬という言葉すら似合わないほどに過ごしやすい気候になってきている。防寒具でちょうど良かったはずが、今では暑いと感じている。
次の日から迷わず防寒具をやめて、靴下を履いていった。朝7時前にいつもの集合場所に行くと、全員防寒具をやめている様子が見て取れた。
やはりみんな、防寒具が暑いと判断したようだ。毎度のことだが、またまたみんなと気が合ってしまった。
そんな普通の日を経て、ついに1年生が終わった。修了式後にはみんなで写真を撮りあい、一通り終わってからそのまま遊びに行った。
電車で都心まで向かい、自転車は学校に放置した。
そんな日でもいつもとやることは変わらない。いつも通りゲームセンターで遊び、いつも通りショッピングを楽しんだ。
夕方になると、それぞれ3人と2人に別れてクラスの打ち上げを兼ねたディナーへと向かった。私は同じクラスの友人2人と歩いて20分ほどのレストランへ真っ先に到着し、みんなを待った。
街中のレストラン前での見慣れた制服姿の3人は分かりやすかったようで、場所を理解していなかった男子ですらすぐに分かったと苦笑いしていた。
直前まで部活をやっていた部活動生以外は、みんな一度帰宅していて私服だったので、この時ばかりは失敗したと思った。
しかし陸上部の友人をはじめとして、野球部や吹奏楽部などの多忙な部活のメンバーが制服だったので悪目立ちせずに済んだ。
バイキング形式のレストランの端の方が予約席として私たちのクラスで埋め尽くされた。
今回全員が揃ったわけではなかったが、みんなで色々な思い出話をして楽しんだ。私と友人と、そして陸上部の子。肉ばかり食べる制服姿の4人の女子を見て、男子は太るぞーと茶化してきた。失礼な、と笑いながら返す空気は柔らかく、決して喧嘩のようなものではなかった。
そんな中での話は食事を終えても止まず、帰りの駅に向かうまで永遠に続いた。
夜9時を回っていたが、やはり防寒具無しでも寒いとは感じなかった。
すぐそこに春が来ている。
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