第65話 恋人以上の
終業式が終わり、短い冬休みに入る。
私たちには当然のように年末の29日までは授業があるのでまだまだゆっくりはできない。
勉強が嫌いなわけじゃなかったし、少しでも長くみんなと学校生活を送れることになるのでありがたいとすら思っていた。
23日になり、当時の天皇誕生日で休みが入る。私たちは明日の予定をメッセージで話し合っていた。
中学生の時から、クリスマスは必ず5人で過ごしている。もちろん今年もそうするし、来年も再来年もそうしたいと思っている。
翌日になり、私も含めてクリスマスを共に過ごすような彼がいないいつもの5人組が集まった。午前中の授業が終わって一旦家の方に向かい、自転車を友人宅に置いてから電車でクリスマスマーケットに向かった。一応昼間にもやってるが、せっかくなら豪華なイルミネーションで彩られる夜に行きたい。しばらくは商業施設で暇を潰した。
暇を潰すと言っても、映画を見たりゲームセンターに行ったりとこちらもかなり楽しんでいた。ガラス張りのフロアから見た空が暗いのを確認してから、いよいよクリスマスマーケットに向かった。
クリスマスマーケットでは、暖かいものを中心とした飲食物やお酒のお店から雑貨のお店まで、様々なものが立ち並んでいた。
私はホットドッグにコンソメスープ、それからホットココアを頼んだ。
普段は猫舌な私でも、こんなに寒い外で食べる暖かいものは美味しくてたまらない。
それぞれがピザやパスタ、オムレツなどの暖かいものを食べていたため、私たちの座る野外テーブルの真ん中が集まった熱気で白くなっていた。
誰かがメガネでもしていれば曇りで困る場面だが、全員がコンタクトすら不要の裸眼だったので心配する必要は無かった。
今日はクリスマスイヴ当日ということもあって人が多い。主にカップルや家族連れ、私たち同様に制服を着た高校生のカップルなど、目につくほとんどの人が恋する人々か愛する人々のどちらかだ。
この5人で過ごすことは、今の私にはとっては誰かに恋すること以上に価値がある。
友達以上恋人未満なんてよく言うが、普通に恋人以上の存在だ。
そんな友人達と、いつものように記念撮影した。まるでデートのような夢の時間だ。
寒くなりすぎないうちにクリスマスマーケットをあとにし、私たちは自転車を置いた友人宅へと向かう。
今回も楽しいホームパーティの幕開けだ。
ひとりが湯船に浸かれば次の人が入るというローテーションで順番にお風呂に入り、最後の友人が上がってからケーキを5人で囲んだ。今回も友人の母が見るからに高級そうなアソートケーキを用意してくれていた。
クリスマスは年末に近いこともあり、ケーキやスナックを食べながら1年の振り返りの話題になった。
私のこの1年には劇的変化という言葉以外似合わないであろう。
高校生になって生活が激変したことはもちろん、私個人が社会的に性別が変わったことは何よりも大きな変化だった。
入院って聞いた時は心配しかなかったが、手術とその内容でもっと心配になったと言われた。終わりよければすべてよしでしょと答えたが、続けて心配してくれてありがとうとも言った。本音が立て続けに出た瞬間だ。
そして友人の1人が、実は彼氏がいたと打ち明けてきて4人で驚いた。同じ中学校を卒業した男子の名前が挙げられたが、3ヶ月でお別れをしたらしい。
彼女は別れの理由を説明し始めた。振り絞るような声で、私たちの知ることのなかった衝撃の事実を次々と口にした。
彼氏から暴力を受けていたというのだ。
今も別の高校で部活動を続けている彼からの暴力など、想像すらしたくなかったことだ。
持久走や様々な体育の授業で仲良く競っていたその強靭な体を、よりによって私たちの大事な友人を傷つけるために使っていたのなら絶対に許すことができない。
当の彼女は私たちの日頃の運動で鍛えた護身術を使った必死の反撃でその場を乗り切って、その場で別れを告げて以来会っていないと語った。
彼氏なんて当分いらない。みんなの方が好きだし楽しい。涙も流さずそう強く宣言された。
ケーキが無くなってからはゲーム大会でまたまた大騒ぎの時を過ごした。明日も学校なので遅くまではできなかったが。
広めの客間に5つの布団が並び、窓際に5着の同じ制服がかけられていた。制服の下にはスクールバッグとリュックが綺麗に並べられていた。まるでお店の売り物のようだ。
ここまでしてくれた友人の母には本当に感謝しかない。
来年も、一緒に過ごしたい。
そう願いながら聖夜の眠りについて、恋人以上に仲の良い5人の女子高生達の楽しいクリスマスイヴが幕を閉じた。
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