女子学生服で6年間を過ごした僕の実話

第64話 ドタバタ模試

術後1週間目の診察が終わった。私の身体はこの1週間をもって完全に女の子になったため、もういつも通りの生活に戻っていいとの診断結果が出た。来週からは自転車通学再開だ。

クリニックにて正式な書類を受け取り、そのまま市役所と家庭裁判所へ向かった。戸籍上の性別を変えるためだ。

正式なものが終わるまでは戸籍を変えないつもりでいたため、私の籍は未だに男性だったのだ。

名前は元々女の子にも使えそうなものだったし、愛着もあったことから変えなかった。

手続きが終わり、この瞬間から私は社会的にも女性という性に変わった。

学校にも連絡を入れ、学籍情報等の更新を依頼した。私は入学してから今まで、学籍情報の性別欄を空欄にしていたのだ。

学校側が便宜を計ってくれていたおかげでこれまで女子生徒だったし、これからも変わらずに女子生徒だ。でも、学籍情報にしっかりと記載できるようになったのは大きな1歩だと思う。

次の日、友人がお祝いに遊びに行こうと提案してくれていたので、いつもの集合場所に向かった。

朝の着替えの際、いつも確かにあったはずのちょっとした膨らみがなくなっているのを見ると、改めて切除したんだなと自覚させられた。

みんなでショッピングにランチ、それにカラオケと、女の子として迎える初めての休日を最高の仲間と共に遊んで過ごした。

カラオケでは、お祝いと言って見るからに暖かい可愛らしいニットをプレゼントしてくれた。友人曰く、血行促進の効能付きで私にピッタリだとみんなで入院中の放課後に選んでくれたらしい。本当に私は幸せ者だ。

月曜日を迎えた。運動も解禁されたので今日は体育館に行くつもりだった。

しかし私は急な出来事ですっかり忘れていた、今週末に模試が控えていることを。

私たちにとっては来年同じクラス、または隣のクラスで一緒に過ごせるかどうかがかかっており、一切手を抜けないのだ。

私たちは模試までの5日間、毎日晩御飯の時間まで自習した。授業の終わった教室は生徒が帰ったとみなされて暖房が消されてしまう。そのため職員室に再び電源を入れるようにお願いしに行く役割を、日替わりで全員1回ずつ務めた。

私は月曜日の放課後だけで、欠席の間の板書やプリントの写し、そして課題を全て消化した。

友人が私が見やすいようにいつもより丁寧に書いたと鼻高々に言ってくれたノートの数々を、よりによって模試の前に長時間借りる訳にはいかない。写真を撮るというのも自分の中では許せなかった。

だからこそ、1回の放課後で終わってよかったし、私に見せてくれた友人には本当に感謝しかない。ほんの気持ちだがトイレと言って席を立ち、学食まで走ってみんなに軽食と飲み物を買った。普段のみんなの優しさやプレゼントは、私の中で価値を付けられるようなものではない。何よりも大事にしたい友人達だ。

身体への無理な負担を考えれば、この一週間は体育館に行けなくて正解だったのかもしれない。実際、術後初の体育の授業では下半身に少し違和感があり、まだ万全ではないことがすぐに分かった。

バタバタと追い込みをかけた模試前最後の悪あがきも、金曜日夜7半時の完全下校をもって幕を閉じた。この5日間は非常に充実していた。私たちだけでトップ5を独占できるのではないかと思うほど勉強した。

最後にみんなで軽く円陣を組み、来年も同じクラスで、と気合いを入れた。

迎えた本番当日、今日もみんなで自転車通学だ。各々手袋やマフラー、コートでバッチリ防寒して向かった。私はもうリボンを落としたくないので、カバンの外ポケットに留めて駐輪場で装着するようにしていたが、いつの間にか友人が真似していて面白かった。

緊張に包まれる中テストが始まった。今回は記述式なので時間に追われないように気を付けなければならない。

私のペンはどの教科の時もスラスラと進み、かなり余裕を持って回答することが出来た。終了間際の見直しで、選択式の問題の回答が1つずつずれていることに気付き、何とか修正を間に合わせることが出来た。

全ての教科が終わってみんなで再集合すると、笑顔を見せていて安心した。

この調子なら来年もみんな同じクラスかな、と5人それぞれが安堵した。

結果5人全員がトップ10に入っていたので大喜びした。そんなとある冬の模試だった。