第63話 私の決断
先週の期末テストが全て返却された。5人の中では2番手だった。
今年はもう終業式までいつも通りの生活をなんの緊張感もなく送るだけだ。そう思っていたが、冬休み前の締めとして模試があることをすっかり忘れていた。
模試の結果次第ではクラスを落とされてしまう可能性もあるので気は抜けない。
そんなことを考えていた1日が3限まで終わった頃、急にお腹の下辺りが痛くなってきた。
ああ、来たか。と私は一旦トイレに駆け込んだ。慣れたもので生理が始まったのだとすぐにわかった。周期的にもそろそろだろうと待ち構えていたので対策はバッチリだ。
だがしかし、今日は今までと様子が違う。痛みが今までと比べてかなり弱く、痛くなっている場所も違う。
そしてついに私は自覚させられた。いよいよ本格的なものになってきたと。
前回受診した際にクリニックの先生から、なにか動きがあれば連絡なしでもいいから来るように。と言われていたので、担任の先生に全てを話し、早退してクリニックへ向かうことにした。担任は駅へ向かおうとする私を見て、昼まで授業もないからとわざわざクリニックまで送ってくれた。
電車の強烈な揺れに耐える必要がなくなっただけでもありがたかったが、ほとんど歩かずにクリニックまで行くことができた。本当に感謝している。
担任のおかげで元気なまま到着し、すぐにいつもの先生に診てもらった。
診察が終わると、先生は何やら険しい顔をしていた。自分が今どういう状態なのかは自分が一番分かっていたので、何を言われるかは簡単に予想できた。実際に言われたのは想像以上に複雑なことだった。
簡略化して言うと、今の私は両性器が同時に動いている状態にある。もちろんこのままで良いなんてことはなく、どちらかを選んで除去しなければならない。
それもタイムリミットが迫っており、私の場合は早めに手術をしなければどちらとも動かなくなる。
男性になるか女性になるかを選ばなければならない時が迫っているようだ。
もちろん両親にも連絡は行き、すぐに病院に来た母と先生と私で話し合いが始まった。
私がどちらとも持っている以上、その選択は完全に私次第になった。母も先生も、何も意見せずに私に委ねてくれた。
私は、男の子だった僕としての最後の証との別れを決意した。
心身ともに女の子に向かっていることなんて分かっていたし、友人達のおかげで今日まで女の子の生活が楽しかった。だから今更男の子になりたいなんて思わなかった。そんな単純な理由だった。
ここまで来たんだから、覚悟を決めて女の子の私として生きていこう。そう決めたのだ。
念入りに意志を確認され、私と母の直筆署名が入った同意書を提出した。もう後戻りはできない。
本来こういった悩みを抱える人々は両性器とも未熟な場合がほとんどなため、望まれる方の臓器を人工で成長させる手術によって性適合される。
しかし私の場合、他の部分を含めてしっかり女性としての身体に成長している。そのため本当に切除だけが必要なのだ。
このクリニックは外科的な治療も入院の設備もしっかり管理されている。人によっては術後に1か月ほどの入院が必要になる場合もあるため、全てがこのクリニックだけで済むようにしてある。
私はとにかく急ぎだったので麻酔等の検査がすぐに行われ、2日後の土曜日に手術を迎えた。担任にだけ全てを話し、友人には終わるまで黙っておくことにした。
手術直前には、麻酔から目覚める頃には無くなってしまうそれを最後に軽く摩って眠りにつく。16年間ありがとう。そんな想いすらあった。
朝から手術室に入ったきりで、次に目覚めた頃には午後3時を回っていた。
まずは生きていることが幻影でないことを確かめて、静かにベッドから体を起こす。
麻酔の前のことを思い出して静かに下に手を当てると、確実に私の身体からそれが無くなっていた。
いよいよ私は生まれ変わった。本当に女性になった。逆に男性としての私は失われた。
女子中学生になって身体が変化しだした頃からの私が男性だったとは言い難いが、付いている限りはさっきまで男性だったのだ。
隣にいてくれてそのまま居眠りしていた母も目を覚まし、私を見つめながら全てを話してくれた。
本当は私が生まれた時点で男女両性の特徴があることは分かっていた。だから私の状況を見て真実を話そうとしていたが、そう考えた矢先に私がセーラー服に手を伸ばしたのだと。中学2年から女子生徒として通うことも母が提案したものだったようだ。
母は私に謝ってきたが、私はありがとうと返した。
結果として私が望んだ女性になれたのだから、その過程がどうであれ幸せだ。
その過程でも私は楽しい日々を送れていたのだから、母の行動は間違いではなかったはずだ。
術後2日間の入院中も、ベッドサイドに置いた制服のリボンが私を勇気づけてくれた。私たちがいるから大丈夫だと言われた気がしていた。週明け火曜日から学校に復帰した。1週間は自転車に乗れないので、学校へは母に送迎してもらった。
友人には土曜日の手術後に全てを話していたので、私を見るなりこれまでにないほど強烈なパワーでおかえりーおめでとーと言いながら抱きついてきた。
今日からまた新しい生活が幕を開ける。
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