第62話 リボン

今日はテスト最終日。今回も英語が最終日に回されているので長めに勉強して備えた。

徹夜は絶対にしないので、テストの日も目覚めはバッチリだ。今回は何も躓くことなく最終日を迎えられた気がしている。

いつも通りにみんなで自転車通学した。教室に着いてマフラーを取ると、友人がリボン外れてるよと指摘してくれた。私たちの制服のリボンはクリップ式で、ブラウスの1番上に留めるタイプだ。きっとマフラーに巻き込まれたのだろうと思って広げても見当たらない。

時間があるので駐輪場まで戻り、教室までのルートを辿っても見当たらない。

朝からの着け忘れを考えたが、それなら毎日玄関で見送ってくれる母から指摘があるはずだ。きっと通学中に落としたのだろう。

そう思って素直に学校の備品のリボンを借りた。新しいものをすぐ買っても良かったのだが、一旦は借りることにした。テスト直前とあって時間も余裕もなかったのだ。


テストは切り替えて挑むことが出来た。いつも顔に近いリボンからは柔軟剤の匂いがするが、今日はいかにも放置されたような若干のカビ臭さを感じた。

不安だった英語のテストも無事に終わった。自信はかなりある。今回も絶望的な顔をするクラスメイトに対して優越感を感じつつ、全然できなかったーと女優を発揮した。


満足な気分で帰ろうとすると、いつもの5人で担任の先生に呼ばれた。

正直何の用事か全く分からないのでヒヤヒヤしていた。

なんと、私たちの名前が書かれた制服のリボンが落し物として届いたというのだ。確認すると、紛れもなく私のものだった。

実は、私たちの5人の制服のリボンには全員の名前がアルファベットで書いてある。これは私たちなりの絆の証だ

その中で1番上に自分の名前が来るようにしてあり、届いたリボンも私の名前が1番上に来ていた。

改めて見せられるとちょっと恥ずかしい。入学して2日目くらいに書いたのを昨日のことのように思い出せる。

学校のすぐ近くの交差点に落ちていたのを、通りかかったこの学校の卒業生が拾って届けてくれたとの事だった。

私は見ず知らずの女子高生にこんなにも優しくしてくれる先輩がいるのかと感動した。

すぐさま備品のリボンを返し、私と共に数ヶ月過ごしてきた大事な相棒を装着した。

優しい大先輩のおかげで傷一つも、汚れさえもなく私の手元に帰ってきた。柔軟剤の匂いもそのままだ。

ものは買えばいい話だが、私たちの名前が入った特別なリボンは無くしたら二度と戻ってこない。だからこそ本当に戻ってきてくれてよかったと思う。

私は爽快な気分で帰路へと就いた。


そして今回も、無料権をかけたサバイバルカラオケが始まった。前と同じステージ付きの部屋に案内され、またまた楽しい真剣勝負が幕を開ける。

気分が上がったまま歌い続けた私の97点が最高得点だったので、今回は私が無料になった。

テストの点もこれくらいあればいいのに。そう思ったが、手応えのあった英語でカラオケと同じ97点をマークしていた。


もう落とさない。テストの点も大事な大事なリボンも。そう宣言すると、友人に爆笑されながら、ださいなーと思いきりツッコまれてしまった。

でも、大事なリボンを落とさないというのは紛れもなく私の本心だ。1200円で買えるただの制服のリボンでも、これは紛れもなく私の宝物。

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