第61話 寒さに打ち勝て

季節は11月の半ばだが、今年は寒くなるのが早い気がする。長く続いた制服移行期間もいよいよ大詰めだ。中学の時はギリギリまで夏服を着ていたが、今年は移行期間が始まってすぐ中間服にシフトした。単純に夏服では寒いと感じるようになったのである。

だが昨日はその中間服ですら寒かった。なので今日から冬服を着ることにした。

女子は冬服、中間服のオプションとして、ベストと同じデザインのセーターがある。これを着るだけでかなり暖かくなるので、本格的な冬服期間はほとんどの女子生徒が使うそうだ。そのセーターの販売が今日からスタートする。

昼休み1番乗りで売店に行ってすぐに5人で手に入れた。6千円くらいしたと思うが、今後の寒さを考えたら随分安いものだ。

その場でタグを外してセーターに袖を通した。見た目のデザインは全く同じでも、素材が少し厚めでちゃんと長袖なのがありがたい。セーラー服のように袖口が締まっているので風が突き抜けないのもポイントだ。

ベストとセーターではこんなに違うものなのかと思わず感動した。

だからこそ、翌日洗濯のためにベストで1日過ごした時は袖口がスースーしていて地獄だった。


冬服期間に入ったので防寒具の使用が自由になった。慣れてきたとはいえスカートはやっぱり寒い。

友人とクリニックの先生の勧めによって、防寒用のストッキングは超厚手の140Dのものを選んだ。あまりにも薄いものだと体が底冷えして生理不順が起こりやすくなるらしく、私のような未熟な機能を持つ子が1番やってはいけないことだと言われた。

登下校時は相変わらず自転車だが、厚めの手袋とマフラーが必須だ。首元はブラウスのおかげで締まっているとは言っても冷やしてはならない。中学の修学旅行前にみんなが選んでくれたマフラーは今でも重宝している。

手だって同じで、素手で通学するとシャーペンが握れないほど悴んでしまう。

着替えや準備に多少時間がかかったとしても、体調の維持のためだと思えば損は無いのだ。


期末テストが近づく頃には、家を出る時間に自転車のオートライトが点くほど朝の空が暗くなった。どれだけ晴れていても学校に着くまでに朝日が昇ることはない。そんな中を通学しなければならない。

自転車通学がある意味サバイバルで命懸けのイベントになってきたようだ。それでも電車通学だけは絶対にしないというこだわりは揺るがなかった。

私たちが9コマもの授業を終えて帰る時間は、ちょうど日が落ちる時と被っていた。晴れている日だと綺麗な夕焼けが見られて疲れも吹き飛ぶのだが、晴れていない日はただただ灰色から紺色に変わりゆく空と向き合わなければならない。


12月が近づくと、教室の空調はバッチリでも廊下が寒くてたまらなくなった。本当は歩きたくないが、学校で廊下を歩かずに生活はできない。

私が友人と廊下を歩く際には、わざとらしく抱き合ったりして暖を取り合った。

いかにも女子高生らしい行為だが、最初は私が本物の女子に抱きついていいのかという迷いがあった。

でも、そんな心配をよそに抱きつかれることが多かったし、私も勢いで気にせずに抱き返していた。色々な意味で暖かく感じた。


みんなのアドバイスと私たちなりの工夫のおかげで体調はバッチリだったし、体育館での運動は冬場にもしっかり継続した。

今年の冬はやっぱり寒い。年を越えて桜に再び色が付く頃まで、私たちが抱きつき合う日々が続きそうだ。

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