第60話 (番外編)私の大切なお友達
これは私の大切なお友達の話。私、私たちと彼女との出会いは中学校まで遡る。
入学式の前に教室を見渡すと、半分は知ってる人、もう半分は知らない人だった。私たちの地区は2小1中なのでそうなるのも当然だ。
それにしてもセーラー服って、見る分には良いが着てみると不便なものだ。でも私は気に入ってる。なんてったって可愛いんだもん。
家から中学校まで25分歩かなければならない私には、自然と家を早めに出る習慣がついた。だから教室にはいつもいつも一番乗り。
入学から今日で3週間目になる。桜も緑色に姿を変え、大型連休が近づいている。
今日も教室に一番乗り、じゃなかったようだ。珍しく私よりも先に誰か来ている。
私の席の2列ほど向こうにセーラー服を着て座っていたのは、金曜日まで学ランを着ていたクラスメイトだった。私は一瞬硬直したが、それよりも先に率直な感想が出てしまった。
かわいい。似合ってる。そう思った頃には既に口に出していた。一言で表すならそれは女装。でも私には、それが彼女の自然な姿のように見えた。
時間が流れ、クラスメイトが続々と登校してきた。みんな私と同じように、一瞬硬直するような反応をしている。私は1番最初に見ただけあってもう既に慣れてきたが。
HRでは先生から彼女の今後についての話が入る。本人の希望によって今日から女子生徒の制服で登校する。今後も男子として過ごすので、制服以外の扱いは男子生徒のまま。そんな内容だった。
そんなに憧れてるならいっそのこと女子になっちゃえばいいのに。というかセーラー服で男子トイレに入るのかな。そう心配したが、彼女は誰でも使えるトイレを利用していて安心した。
そんなちょっと変わった彼女との日々が流れた。夏服を経て冬服に戻る頃には髪も普通に結べるくらいまで伸びて、セーラーの後襟にかかっていた。
私は一緒に過ごすことが多くなった3人の友達と、合唱コンクール後に遊びに行くことになった。だから思いきって彼女を誘ってみないかと提案したのだ。このうち2人は小学校も同じなのでよく知っていたらしい。
友達は皆二つ返事で賛同してくれたが、それとは対照的に彼女はキョトンとしていた。
教室でしか会ったことのない彼女は、女の子よりも女の子だったし、一緒にいて本当に楽しかった。
それからというもの、一緒にいる機会がどんどん増え、私たちにとってなくてはならない存在になった。
時々忘れちゃう、本当は男の子だってこと。セーラー服は似合ってるし、顔も女の子だし、声も高いし、ムダ毛も跡もない。逆になんで男の子だったのだろうか。
共に過ごした3年間はあっという間に流れた。このまま高校で別々になるのかと思うとなんだか寂しくなってきた。本当はもっと一緒に、出来れば5人で過ごしたい。
彼女は公立がダメでも恐らく女子校に行くだろうし、みんな落ちることなんてないはずだ。
卒業式から帰路についたが涙が止まらない。
合格発表の日、私は公立高校に落ちていた。悔し涙を枯れるほど流した。
落ちたら集合と5人で決めた公園に着くと、全員が揃ってしまった。さらに彼女が私たちと同じ高校に行くことをその場で決めた。5人で同じ高校に通えることになったことは大喜びだった。
今、私たちは高校の正門に並んでいる。
実は女の子だったことが判明した彼女も、私と同じ制服を着て立っている。
これは、私の大切な友達が女の子として新たな1歩を踏み出すまでのお話し。
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