第44話 まるで姉妹のような
3月も終わりに差し掛かってきた。つまり私の社会上の女子中学生という身分が終わりに近づいてきた。実は昨日制服が家に届いた。私立高校ということもあり、わざわざメーカーから家に配送してくれるので取りに行く必要がないのである。
私は分厚い箱を受け取るなり真っ先に開封して、スカートとブレザーのしつけ糸を丁寧に外し、言うまでもなく直ぐに着用した。
今回も腰の位置を考え、スカートがやや長めになるように特注をしてある。採寸の際にメーカーの方に事情を説明したらすぐにそうした方が良いと提案してくれた。中学校の紺と白だけで彩られた可愛らしいデザインのセーラー服と違い、様々な色遣いがされている割に大人っぽいシックな印象を受ける。それでも可愛く仕上がっていて私はすでに気に入っている。
朝早く起きた割に髪を整えるのに時間がかかってしまった。
そんなバタバタな今日は久しぶりにあの子に会う。長らく面談を共にした、私と同じく女子生徒として学校に通う1年生の子だ。卒業式に会いに来てくれた時以来になる。ずっと2人だけで遊びに行きたいねと言っていたのがようやく実現した。春休みの一日をわざわざ割いてくれたのだ。
一緒にランチと映画とショッピングに行く。
向こうからの提案でせっかくなら制服で会いたいとの事だったのでまたセーラー服に袖を通すことになった。中学校はとっくに卒業しているのに、合格発表、新入生集合、塾、クリニック受診なんかで、なんだかんだまだ中学校の制服を着る機会があった。そのおかげで全く抵抗感がない。
集合場所は中学校の前だ。部活動に向かう子たちに紛れて合流し、バスで都心へと向かう。
着いてすぐに、公園へ行ってまずは2人で記念撮影をした。つい最近買ってもらったばかりのスマホで綺麗に撮ることができた。
インカメで腕を伸ばして必死に撮った後、ベンチに置いてセルフタイマー撮影もした。写真に映る私たちはこの格好を含め、誰よりも可愛かった。この写真に映るセーラー服の2人が、少し前の小学生時代には男の子だったなんて一体誰が信じるだろうか。
ランチにはオシャレにパスタの店を選んだ。
私は麺類が特に好きな訳では無いが、相手の子はとにかく麺が大好きなようだ。女子生徒になってからも食べ続けた結果太ってしまったらしい。女の子なんだからちゃんと制限しないと、食べたいなら運動しなきゃね。とアドバイスした。
私だって未だに食べるのが大好きだ。だからこそこのお店のパンのおかわりを何個も食べている。だからこそ日々の運動は大事なのである。
パスタの店を後にしたが、映画まで時間がまだまだ余っていたので商業施設内のベンチで一休みした。ここで私は一旦バッグを持って公共トイレへと駆け込んだ。
実は今日、誰にも内緒で高校の制服を持ってきている。もちろん茶色のローファーも指定の靴下も込みだし、スクールバッグまで持ってきていた。
途中で着替えてあの子に見てもらおうと、ちょっと重たいのを我慢して今まで過ごしていた。
昨日着る練習を何回もしていたので簡単だった。右前のブラウスを着て腰にはスカートを穿く。ベストを着てリボンを着けてブレザーを羽織る。靴下は片方ずつ慎重に履き替え、終わった方からローファーに脚を入れる。
最後にスクールバッグにセーラー服をたたんで直し、今日ここまで荷物を入れてきたバッグを直せば終わりだ。私は女子高生に変身した。
ベンチへ戻ると相手の子から、かわいいです、制服も先輩も。いいなぁ。とお褒めの言葉をもらった。
1番に見せたかったの、と言って再度2人で記念撮影をした。傍から見れば女子高生の姉と女子中学生の妹のように見えていたかもしれない。自慢じゃないが顔も少し似ている。
そのまま映画に行き、夜7時くらいまで色々な買い物をしたあと、相手の保護者の了承も得て晩御飯にステーキを食べた。
個室のお店だったので、話しはやはり私たちの共通事項に向かった。彼女は今、性同一性障害の診断を受けに行くか迷っているらしい。先輩は行かれましたか。と聞かれたので、つい最近の診断結果をありのままに話した。目を丸くして驚いていたが、私はある意味安心したのだと伝えてあげた。だからどんな結果でもセーラー服を着ていいし、私のように元々が女性だったのならそれはそれでいいことだと、不安がる彼女に教えてあげた。
彼女はそれを聞くと一気に表情をゆるめて、私行ってみます。どんな結果でも公開しません。私の心が女性でありたいと思っているのならはっきりさせます。と決意をしてくれた。
帰りのバスを降り、校区が同じなので家までこの子を送った。春が近づく夜空の下を、街頭に照らされながらブレザーとセーラーで姉妹のように歩いた。
私もまもなく女子高生、まずはこの短いスカートとローファーに慣れなければならない。
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