第43話 女子高生になる前に

新入生集合日が終われば次の登校は入学式だ。私たちには女子高生になる前にやらなくてはならないことがある。それは痩せることだ。

受験期にも少しだけ運動していたが、それまでの頻度とは比べ物にならなかった。結果、私たちは皆太ってしまったし体力も落ちていた。だから入学までほぼ毎日運動した。たった十数日の、最後の悪あがきというやつだ。

私たちの中学生の時からのこの活動はかなりいい影響をもたらしていたと思う。みんな身体が強く滅多に怪我病気しなかったし、体力があったので体育の授業なんかは全然苦労しなかった。

入学までに少しでもあの時の私たちに戻ろうという目標を打ち立てていた。

ちなみに塾の方では、無料で週3回午前中に高校準備講座が行われた。主にこれまでの復習と、全く分からない高校レベルの授業へのチャレンジがあって楽しかった。友人と一緒に欠かさず参加した。


私は私で、入学までにやっておきたいことがあった。

この日私はみんなに今日は行けないと伝え、1人で都市にあるクリニックを受診した。母は何度も付き添うと言ってきたが、勇気を持って1人で受診した。いずれは1人で向き合わなければならない私自身の問題なのだから。

行く際はどんな格好でも構わないのだが、敢えて久しぶりにセーラー服を着て行った。

ここは精神科に近い、いわゆるジェンダー専門クリニックだ。

中に入り保険証を見せる。先生は思わず2度見していたが、慣れているのかすぐに話が始まった。

いくつかの質問に答えると共に、1年生から女子の制服で学校に通っていたこと、2年生からは女子生徒として生活していたことを全て話した。これらの問診による資料を元に、私の心の性別が判定される。

問診が終わり、DNAなどの検査に移る。この検査をもって身体が男性なのか女性なのかを判定する。

その2つの診察結果に差が出る場合が、いわゆる性同一性障害だ。私は言うまでもなく身体は男性だし、心には女性が芽生えつつある。だから性同一性障害の部類なのだろうと思い込んでいたのだ。


私の診察結果は、心は間違いなく女性になっていて、身体は7割方女性だと判定された。私は訳が分からなくなった。

もしこの判定が事実なら性同一性障害ではなく、私のそもそもの性別が女性であるということになる。本当ならこの診断にも頷けるのかもしれない。でも私は違う。

私は男性の生殖機能を持っているし、しっかり機能もしている。だからこそ余計にわけがわからないのだ。

先生は続けて言う、君はおそらく男女両方の性機能を持って生まれた。その上心に女性を抱えたまま生きてきた。中学校での何かがきっかけで心体両方の女性が強く出たのではないか。つまりあなたは単に半分女性だったのが完全に女性化しただけです。

きっかけがあるとするなら、興味本位でセーラー服に手を伸ばしたあの日だ。私の心体の女性が強く出始めていたとすれば、それは女装ではなく女性としての自然な行為なのだ。

私は衝撃を受けた。やはり中学生を女子として過ごしてきたとは言っても、小学生まで男性だった12年間は一体なんだったのだろうか。裏を返せば、男子だった頃の方が性同一性障害に近い状態だったと言える。

何より、私には男性の生殖機能があるのに。

でも声が変わったことや胸が膨らんできていたこと、顔が普通に女の子の顔になっていたことなんかは確かに精神的なものでは説明がつかない。そういった面からすると、女性としての機能の方が全面的に出ているという説明にも納得がいく。


結局私は性同一性障害じゃなかった。そもそもが女子なのだから。それは紛れもなく事実として受け止めるしかない。

でも、私は案外安心してたのかもしれない。逆にこれからしっかり女子高生として生きていこうと思えた。そんな前向きな考え方をできるようになりつつあった。

結局、学生の間というのははっきりしなくても受け入れる側さえ良ければ自認の性で生活することが出来る。先生も焦る必要はないと言ってくれたので、しばらく現状のまま女子生徒として生活することに決めた。


次の日、公園でみんなにありのまま打ち明けた。みんなはそれで良かったじゃん。でもどっちにしても堂々と女子名乗っていいんだよ。と言ってくれた。

女子高生になるまであと2週間。私たちは、晴れやかな気持ちで入学式を迎えられそうだ。

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