第35話 秋に恋する

夏休みも開け、平日は学校へ行く日常が戻ってきた。二学期からは塾の授業形態が変わり土曜日は朝から夕方まで、日曜日は朝から昼過ぎまで授業が入る。当然終了後や空き時間は自習の時間に充てられるので、私は友人と毎回2時間はその日の復習をしていた。


ある日曜日、この日は私服で塾に来るように言われていた。

この塾では小中高とも、毎年受験生の学年はみんなで合格祈願に出かけるイベントがある。特に中学生は6km先にある神社まで歩いて参拝する。

その道中の歩きは制服だと汗だくになってしまい、次の日の学校に影響が出てしまうために私服で行くのである。私は白いシャツにデニムのズボンを履いて通学した。

午前中は授業があり、午後の落ち着いた頃に出発する。


距離はそこまで長くはないので、みんなで楽しく喋りながら、時にはふざけたりしながら神社までしっかりと歩いた。

神社に着くと、境内に上がって本格的な合格祈願をされた。私だけじゃなく、みんながどんな受験結果でも幸せになれますように、そう心の中で願った。

帰りも相変わらず歩きだ。財布はしっかり持ってきていたので、自販機で飲み物を買ってしっかりと補給して空腹を耐え忍んだ。

塾までの最後の500mはみんなで競走のような形になり、私は3番手で到着した。

ただの合格祈願だが、本当に楽しかった。

その日は歩き疲れから、自習せずに真っ直ぐに帰宅した。明日からもまたいつもの勉強の日々が続く。


そんないつも通りの勉強の日々が続いたある週末の塾の日、10月だが私はまだ夏服を着ていた。もちろん丸襟ブラウスだ。

この日の朝、塾で同じクラスの他校の男子生徒と駐輪場で鉢合わせした。たまに話す程度だったがおはようと声をかけた。

彼はコンビニで飲み物を買う私の後を追ってくるなり、私に話しかけてきた。

ずっと気になってました。志望校も同じだし、もし同じ高校になれなくても受験終わったら付き合ってくれませんか。と。


私はやはりびっくりしていたし、本当のことを言っていないのを申し訳なく感じた。

彼が私に告白するのも無理はない。私は塾では完全に普通の女子生徒として生活しているからである。

当然私の気持ちとしてもお付き合いできる訳はなく、ごめんなさいと断るほかなかった。

彼は少し悲しそうな表情になりつつ、勝手に待ってますとだけ言ってきた。

待たれたとしても、私は女子生徒だけど、今の私に恋愛なんて縁のない話なのだ。

結局彼にはこの時は本当のことを言わずに、その後も友人として普通の関係であり続けた。


一方でいつもの友人は別の男子生徒といい感じの関係を築いていた。皆志望校は同じで、たとえ関係が良くてもライバルはライバルなのだ。

それだけは忘れずに、私は恋する秋もただひたすらシャーペンを握っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る