第36話 思い出のラストシング
今まさに、中学最後の制服移行期間が終わろうとしている。今年の夏は例年より暑く、移行期間の終わりに差し掛かってもなお残暑が続いていた。暑がりな私は最後の1週間こそ長袖ブラウスを着用したが、それまで夏服のスカートと半袖ブラウスで過ごした。
この時期には毎年合唱コンクールが近づいてくる。今年も賞を取れたらいいなと思いながら曲選びから始まり、今年の自由曲は去年ほど難易度はない植物がテーマの曲に決まった。
今年も私はソプラノで去年同様パートリーダーに任命された。声帯はもう完全に女性になり、喉仏も出てないため去年に増して難なく歌えそうだ。
私はパートリーダーとして、ただひたすらに極端に声の出ない部分の強化に務めた。その結果我がソプラノパートは圧倒的な声の張りとのびを手に入れた。
アルトパートも負けてられないと、一緒に歌う仲間なのに競うように練習したことで女子はかなりの仕上がりだった。
一方で男子はと言うと、相変わらずバラバラで完全に女声に押されていた。
私を含めみんながこのままではまずいと感じていたので、男子側に何度もハッパをかけ続けた。
結局練習では最後まで男子が押されつつあった。それでもみんな本番には強い方だと、信じるしかなかった。
いよいよ本番。私はいつもより固く、綺麗に髪を結んだ。この程よい緊張感、セーラーの襟に毛先が当たる音。おかしな話かもしれないが、私はこの感覚がたまらなく好きだ。
本番でも男子の声が少し押されてしまい、バランスが若干崩れていたのを懸命に歌いながらも体感した。結果的に最後の合唱コンクールでは賞を取ることができなかった。個人としては達成感があったし、それは女子みんなそうだったと思う。しかしながら、やはりどこか不完全燃焼な合唱だった。
私は歌うのが大好きなのかもしれない。結局この日は5人全員で塾をサボってカラオケとプリクラを撮りに行った。
考えてみれば私たち5人が5人組で仲良くなり、いつでも一緒になり始めてからもう2年になる。始まりは1年次の合唱コンクールだったのだ。みんなにそのことを話して本当に感謝していると伝えようとしたが、私は感極まって泣いてしまった。
みんなが支えてくれたからこその中学校生活、女子としての生活だったのだ。そんな生活ももう半年も残されていない。高校生でこれ以上の出会いがあるだろうか。
今この時この場所この関係、もっと大事にしようと心に誓ったのだった。
みんなはそんな私を微笑みながらそっと頭を撫でて励ましてくれた。
考えてみれば私はその時期から本当に変わった。女子生徒としての扱いになり、みんなと本当に女子として過ごす時間が増えた結果男性としての自分が薄れるかのような体の変化もあった。
僅かに残った男性としての特性は、私の身長を3年間で13cm伸ばしただけに留まった。
今後はどのような変化があるかが不安だったが、今の私なら堂々と立ち向かっていけると思えた。
勉強の日々が戻ってきた。そろそろ疲れてきたし、勉強を楽しいとは思えなくなった。
でも、こうしてちょっとだけでもみんなで一緒に過ごせる時間は本当に息抜きになって楽しい。
もっと勉強を頑張ることも大事だが、この時間は1番大事にしなくてはならない。そう思えた日だった。
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