第30話 大喧嘩

ようやく梅雨っぽい雨が降る時期が来た。この時期の雨は降った後に暑くなるから嫌いだ。私もそうだったのだが、梅雨の時期は女子は体調不良になりやすいらしい。授業にもいつもの半分くらいしか集中できなかった。

しかし何より嫌いなのが、足元とくるぶし、さらにはスカートの裾が朝一番から濡れてしまうことだ。幸いすぐに乾くので気になる時間は少ないのだが、衛生的にもできれば避けたいのである。


ある日の昼休み、雨だったので5人で教室でガールズトークをしていた。

雨が続くと図書館の本に湿り気が出てくるので、本すら読まない日々が続いた。

ふと友人の1人が苦しそうな顔をしていたので、大丈夫かと声をかけた。すると友人は、来たかも、まぁあなたには分からないだろうけど。と言ってきた。

それが生理であることなど私にはすぐに察しがついたが、何よりも言い方に腹を立ててしまい、思わず今の言い方は何よと大声をあげてしまった。

友人はこれに対し、とにかくあんたには関係ないでしょと吐き捨ててトイレへと向かった。ちょうど昼休みも終盤だったので彼女が戻る前には予鈴が鳴り、すぐさま掃除の時間になった。


それからというもの、彼女は私に挨拶すらしてこなくなった。いつもは5人でいたはずの昼休みも、4人で過ごした。

1番気を遣ってくれていたのは間違いなくあとの3人だ。敢えてその話に触れないようにしてくれた。

当の本人はというと、私たちの方を向かないようにわざと窓の方に顔を向けてずっと本を読んでいる。ホントは今日みたいな雨の日に本なんて読みたくないはずだろうに。

ほかの女子も男子たちだってあの日の言い合いを見ていたらしいが、あまりこちらに介入してこなかった。

私たち4人はその空気に耐えきれず、本当は本なんて読みたくないのに図書館で昼休みをすごした。でも本の内容なんて頭に入ってこない。私たち5人は誰一人として、今まで喧嘩という喧嘩をしてこなかったからだ。

私が声をかけるべきなのか。いつになったら元の関係に戻れるだろうか。そんなことばかり考えていた。そんな私の感情を表すかのように連日雨が降った。


あの時は忘れていたが、今は梅雨なのだから女子がイライラするのも仕方ない。ましてや生理で大変だった時に。でもあの言い方はありえない。関係ないなんてことない。私だって女子生徒だ。女子生徒用の性教育だって受けてきたんだから、例え体験することがなくても辛さくらい知ってる。

やっぱり私が謝ることなんてないじゃん。

こんな自問自答を毎日繰り返して1週間が過ぎた。

この間もごく普通の1週間が流れたが、塾休みに放課後5人で集まっていた日だけがこの時は中止になってしまった。

私は決心した。今日こそ声をかけようと。

もう何を言われたって構わない。これを乗り越えなければ終わりだという覚悟で授業間の休み時間に声をかけた。


体調落ち着いた?あの時はごめんねと言い終わる直前に向こうから勢いよく

ごめん。あの時は辛く当たっちゃった。イライラぶつけたし、私絶対言っちゃいけないこと言っちゃったごめんね。と言われた。その目には大粒の涙が溜まっていた。

こちらこそごめんね。あの状況で全然大丈夫じゃなかったよね。と返した私も涙を流していた。

私やっぱり寂しかった。1人でいるなんて無理だった。また5人で遊んでくれる?と言われて後ろを振り返ると、3人が微笑みながらこちらを見ていた。3人は当たり前だよ。私たちだって寂しかったんだから。と優しく返した。


窓の外を見ると、降っていた弱めの雨が止んで眩しいくらいに晴れてきた。

今日の昼休みボール貸し出しあるかな。みんなで見に行こうか。なかったらウケるけど。あ、雨上がりだから下でスカート脱がないと。

そんないつも通りの会話が戻ってきた。


私たちなりの、1週間も続いた大喧嘩だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る