第28話 最後の体育祭

3年間で最後の体育祭がいよいよ始まった。今年は係員として審判の仕事があるので、午前中のほとんどの時間を係員専用テントで過ごす。

この頃の5月末は例年に増して猛暑で、今年から一般生徒の席にもテントが建てられることになった。

去年とは違い、雲ひとつ無い快晴での開催だった。赤、青、黄、緑、桃の5色のブロック旗が青空の下に並んだ。私たちは赤ブロックだ。

実は体育祭前にいつもの5人でショッピングに行き、お揃いのスポーツ用スパッツを買って今日この日にみんなで履いていた。他者に見えるものではないが、私たちだけが分かる私たちの絆の証だ。


午前中に大縄跳びと女子のダンスが立て続けにあり、午後には全員で走る全員リレーと選手種目の女子リレーがある。その間を縫うように審判の仕事があるのでかなりハードだった。私にとっては何時間も空いてテントで暇を持て余すよりも仕事と競技ばかりで忙しい方が楽だった。

私以外の4人も何かしらの役員に就いており、みんな暇なのが嫌だからと口を揃えて言っていた。私たちはどこまで気が合うのだろうか。


大縄跳びは練習段階から1度も引っかからなかった。自分でも驚いたのだが、無意識のうちに胸の辺りで腕を締めるようにしながら跳んでいた。女子がよくやっている仕草である。

私のクラスは優秀だったのか、練習の時から40回は跳べていた。

本番では42回跳んだが、隣のクラスが50回を超えたので惜しくも2位だった。

じっくり2競技観戦した後にいよいよダンスだ。昨日の前日準備が終わったあと、役員として残っていた4人合流して1時間ほどグラウンドの隅でみんなでほんのちょっとダンスと談笑をした。だからもう完璧だった。

ダンスの時はブロックごとに使うハチマキを全員同じように頭の後ろでリボンになるように可愛く結ぶ。

女子として過ごす期間が長かったが、こうやってダンスをしている時ほど自由を感じる瞬間はないと思う。何も気にせず思い切り飛び跳ねていいし、可愛い仕草を見せたっていいのだ。10分間はあっという間に過ぎ去った。

両親は写真を何十枚も撮ってくれていた。その中の数枚に、両親も意図せず私たち5人が横並びにバッチリ映った写真もあって嬉しかった。母は泣いていた。己の女子としての道をここまで貫いてくれてありがとうと言われた。感謝したいのはこっちの方だ。


午後はひたすら走る。そのため昼食は軽めにとって10秒チャージを最後に注入した。

女子のリレーは1~4走者までは100m、アンカーは200m走る。

緊張しか無かったが、私へのバトンは僅差の2番目に回ってきた。私はどうしても勝ちたかった。ずっとみんなで体を動かしてきた成果を見せたかった。私は半周でトップに出ると、ゴールに向けて突き進んで見事に1位を取った。女子代表みんなで抱き合ってブロック席に手を振ると、みんなが祝福の拍手をくれた。

いよいよ残すは全員リレーだけだ。全員リレーは基本男女が交互に走る。もちろん人数比の問題から男子が続く部分もあるし、2度走る人もいる。私たち5人はみんな足が速い方で、2人が前半の差をつけたい局面に、私を含む3人が終盤の勝負どころに組み込まれた。この競技は走順がモノを言うのだ。

中軸で1度半周差の最下位になったが、私たち3人や運動部男子の奮闘もありなんとか3番手まで持ち直してゴールした。


最後の体育祭の全競技が終わった。赤ブロックの総合順位は最下位だったが、何よりも楽しむことが大事なのだ。

閉会後には無惨なスコアが記されたボードの前でクラス写真の撮影をして、引き揚げる前に私たちの両親が揃って5人での写真を撮りに来てくれた。

1.2年はハチマキを洗って返すのだが、3年はそのまま貰える。もちろん教室に戻るなり寄せ書きが始まるのだ。5人はもとより他の女子や男子まで、真っ赤だったはずの私のハチマキが黒い文字で埋め尽くされたのだった。

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