第12話 夏休み、旅館

会場から20分、旅館に着いて寝っ転がりたい気持ちを抑えながらまずは温泉に向かう。

髪飾りを脱衣所で解き、頭から体と順に洗う。汗も花火玉の破片も疲れも綺麗に流した。1人で大浴場をほとんど占領するのも悪くないと思った。本当はみんなと一緒に入りたかったが、体の都合から1人男湯に行くしか無かったのだ。これさえなければ、とはならなかったがやはり寂しかった。

風呂上がりの洗面台で長い髪を乾かし、保湿クリームを塗る姿はあまり見られたくなかったが、ほとんど誰も来なかったのが幸いであった。


青い紳士が描かれた暖簾を押して出口を向かうと、同じタイミングで赤い淑女の描かれた暖簾から4人が出てきた。気が合うねと笑いつつ部屋に戻る。部屋には既に布団が敷いてあり、みんなで寝っ転がろうとしたが隣の母2人部屋に来るように書かれたメモを発見した。隣へお邪魔すると、そこにはフルーツケーキが用意されていた。露店グルメだけでは足りないだろうという母親達の気遣いであった。食べ終わる頃には日付けが変わっており、おやすみなさいと告げて部屋に戻る。


当然の事ながら寝るはずはなく、ゲーム大会が幕を開けた。

ゲーム大会では、いつも行くゲームセンターで友人が1プレイで取った金箔のような裏目デザインのトランプを使って、ババ抜き、大富豪、七ならべなどで競った。負けた人は学校内の特定の先生や生徒のモノマネをしなければならない。

初戦のババ抜きで最初から居たジョーカーが結局誰の手にも渡らず敗北、担任の体育の先生が話す時の仕草を真似て笑いを誘った。

それ以降は負けなかったが、一人一人のモノマネにどっと盛り上がった。


ゲーム大会で疲れた私たちは、ようやく布団に入る。しかし寝るはずもなく、次はガールズトークが幕を開ける。

ガールズトークの内容は決まって男性アイドルの誰がカッコイイだとか、美人女優のドラマの話とかばかりである。

私もそういった情報に疎かったわけではなかったのでなんとか話しについて行けた。


ひと段落したところで1人が好きな人の話をする。名前は敢えて聞かなかったが、内容からするに、それが誰なのかは容易に想像できた。

女子が男子を好きになる、これはごく普通なことなのに私は一瞬考えてしまった。

私が男子を好きになる日が来るのかな。


そんなことを考えている間に全員が眠りについたようだ。

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