第10話 体育祭

女子生徒として初めての大きな行事の時期が来た。体育祭では競技の他に、2.3年合同で男子は組体操、女子はダンスを披露する。

ダンスは周りに女子しかいない学校内のダンスクラブに入っていた小6の時以来だった。

曲はダンスパフォーマンス系アーティストのものでそこそこ本格的だった。

体を目一杯使った可愛らしい振り付けがいくつもあったが、私がそれらを苦痛だと思うことはなかった。これも女子中学生として生活するうえで心まですっかり女の子になってきた証だったのではないだろうか。

ダンスの他に選手種目の中でリレーの女子代表になった。


5月末はもう夏手前で猛暑とも言える日々だったが、本番前日夜から不運にも雨に見舞われた。しかし、明け方には少しずつおさまり少雨になったことから、プログラムを絞りながら開催することになった。

そこで言い渡されたのは、男子組体操と女子ダンスを含むいくつかの競技の中止であった。2.3年生はやはりショックが隠せなかった。皆やりたい気持ちが強かったが、リスクを避ける以上仕方なかった。

行われた種目はリレーや200m走、大縄跳びなどのオーソドックスなものばかり。体育祭そのものを早く切り上げる方向で進んだ。


しかし奇跡は起こる。

昼休憩前から強烈な日差しが私たちだけでなく、雨を避けるために厚着をしてきた保護者達を襲った。どことなくジメジメしていた地面も、砂漠化のごとく乾いたのだった。そして昼休憩前の放送で、中止とした種目を全てやることが告げられ歓声が響いた。やはり、私たちのダンスだけでなく、中止になった種目ひとつひとつにそれらを楽しみにしている人がいるのである。


午後になり体育祭が再開された。

ダンスの前にもともと中止にはならなかったリレーがあった。2位でバトンを受けた第3走者の私は、1位に詰め寄りながら順位を維持してアンカーにバトンを渡した。陸上部の彼女は一瞬にして前者を抜き去り、見事1位を取った。私たちはありったけの力でハイタッチした。

ダンスは直後だったので息つく暇もなく招集場所へ行き、クラスメイトからの労いを受けた。

いよいよ本番、私はひとつひとつの振りを正確にこなしていった。1度はできなくなったことが出来るようになった喜びから、ジャンプの振りでは今までにないほど高く跳び上がった。

考えてみればここまで苦労が無かった訳ではない。時々ふと後ろ指さされているような気になって落ち込むことだってあった。付いているのに女の子らしくスカートを履いていいのかと思うこともあった。それらが何も間違った行為なんかじゃないと言われたような気がした。私の自信に満ち溢れた笑顔が輝いた。


女子として初の体育祭は波乱続きだったが、一生忘れられない思い出となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る