第6話 事件は突然に

いよいよ本格的な冬に入る。冬のスカートが辛い女子のためにストッキングの着用ができるようになっていた。上着にカーデガンを重ねて着ることも許可された。雪が頻繁に降る地方ではないので、そのくらいあれば十分防寒になった。私はどちらも買っていた。ストッキングは逆に暑かったことからあまり使わなかったが、カーデガンは黒のものを愛用した。登下校は大した距離がなかったのでマフラー等はしなかった。


制服屋に売っていたセーラーズニットは大いに役立った。体温を守り汗をかかない程度に保つ機能を持ちながら、逆三角形の襟のどこからもその姿が見えないスグレモノである。

夏用もあるらしいが、使わなかったので詳しくは分からない。


私の中学校では、名札は全て縫いつけるタイプであった。しかも常に1番上に着るものには名札をつけなければならかったので、セーラー、冬スカート、カーデガン、夏スカート2着、それぞれに縫い付ける用で計5枚も購入した。

カーデガンを着た初日にはうっかり名札をつけ忘れており、その場で購入して休み時間に自分で縫った。


ある日すっかり仲良くなった1人の女子と、家庭科の時間に完成しなかったティッシュカバーを休み時間を使って急ピッチで仕上げていた。

そして事件は起きた。ミシン針から外れた糸を調整する際にスイッチを切り忘れたのが不幸の始まりで、そのまま仲良しの女子がコントローラーを踏んでしまった。

人の指があるとは知らないミシン針は、真下を目掛けて高速で私の左人差し指にズブリと刺さってきた。

不幸中の幸いか、すぐに針が折れてくれたし、本人が踏んでしまったのも一瞬だったため指が縫われるという事態は避けられた。

しかし指からの出血は止まらず、胸より高く指をあげた状態で保健室から病院へと急いだ。病院も昼休みの最中だったが、厚意で少し早く診て貰えることになった。

問診で男性という生物学上の性別でありながらセーラー服を着ている私に対して困惑されたが、付き添いの保健の先生が説明してくれて助かった。

結局治療というよりは、ペンチで刺さったものをそのまま引っ張る方法で針が抜かれた。一瞬だったので少しも痛くなかった。


怪我よりもショックだったのが、胸上に指を挙げた際に血が襟線に垂れ、赤茶色になっていたことだ。その日のうちに制服屋さんに持っていくと、ものの20分で新品同様の白い襟線になって帰ってきた。

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