8.3 大きな包
「わざわざありがとう。忙しかったのに、ごめんね」
ノートを読んでいた僕の背後で、ハルカさんの声がした。振り返ると、背の高い細身の男性が、何か大きな包みをハルカさんに手渡しているところだった。
「大丈夫だよ。それより今は直さんに会う時間まではないから、よろしく言っといて」
穏やかな、ゆっくりとした喋り方をする人だな。誰だろう。
「うん。また後でね」
「じゃあ、いってきます、ハル」
ハルカさんが手を振る。男の人が急ぎ足で去っていく。
「いってらっしゃい、空」
空。
「あの人……」
男性の姿が完全に見えなくなると、ハルカさんが僕の方に振り向いた。
「そのノートに出てくる空よ。想像より背が高いんじゃない?」
「はい。ノートの中では僕と同じ歳の人なので、不思議な感じです」
そっか、イメージとはかけ離れてるけど、写真で見た沙樹さんと顔つきが少し似ていた。
「高校になって、突然伸びたのよね。どうしようかな、言っちゃおっかな……」
「ハルカさん、どうしたんですか?」
「実は、私ね、あの子と今年の夏に結婚するの。まだお互いの親に言ってないんだけどね。沙樹のこともあったから、気持ちがついていかなくて、お互い顔を合わせることもできずに、気まずい時期もあったんだけど、なんかね、いつの間にか一緒にいる方が楽になってた」
「あ、えっと。おめでとうございます」
「ありがとう!」
ハルカさんは手に持った大きな包みをトントンと軽く叩きながら、はにかんでいる。
「あの、その包みは?」
「これ?」
「はい」
「一葉くん、美術館に行こっか」
僕の返事も聞かずに、ハルカさんは美術館に向かって歩き出した。答えをはぐらかされてしまったのかな。僕は急いで立ち上がるとズボンについた芝を払って、小走りでハルカさんの後を追った。
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