98皿目 チェリーパイ

 もう1軒、パン屋さんの話をしたい。


 これは自分が田舎の町で1人暮らしをしていた頃の話なのだが、その町には滅法おいしいパン屋さんがあった。休日、パンの気分の時はそこへ買いに走るのだが、休みの日は遅くまで寝ていることもありたいてい到着は昼頃。そうなると……パンがほとんど残っていないのだ!

 地元でも有名なパン屋さんなので、特に土日は競争が激しい。めぼしいパンは午前中で大体売り切れてしまうのだ。残っているのはたいていフランスパン。で、そのフランスパンもおいしいのでよく買っては食べていたが、今回の表題はチェリーパイである。昼頃残っているわずかな調理パンや菓子パンの中に、チェリーパイがあれば大当たりだ。ごろっと大きいダークチェリーの光沢が眩しく、パイ生地はもちろん外サクサク中しっとり。そしてチェリーとパイの間には、外からは見えないがカスタードクリームが詰まっているのである。おいしいのおいしくないのっておいしいに決まっている。


 ここですっかりチェリーパイの虜にされたので、引っ越してからも近隣のパン屋さん数軒でチェリーパイを買って食べてみたのだが、ここのチェリーパイを超える逸品にはまだ巡り合っていない。チェリーパイの神様、いつか逢わせてください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る