貴方が死んでも私は歌を詠い続ける。

青いバック

こんにちわ。歌姫AIのスイメイです。

 時は2253年。AIが一般家庭に普及し、ロボットがいるのが当たり前の世界。


 こんな世界では、歌もAIが歌う。

 昔は、人間が歌を歌っていたと言うが、AIの普及と共にその文化も廃れてしまった。


 歌姫AIスイメイ。彼女が今の歌姫だ。

 歌姫とは、世界中で愛される歌を歌うAIに贈られる称号の事だ。


 普通のAIは、AI○○と呼ばれる。


 正直俺はどうかと思うがね。人が歌を歌いその歌声に人がまた感動する。素晴らしいじゃないか。

 しかし、こんな文句をタラタラとたれている俺は結局の所売れない捻くれマスターだ。


 世界中で愛されている歌姫AIスイメイを持ってしても、誰かを感動させることが出来ない俺は結局の所、ゴミって事だ。


 ちなみに今も懲りずに俺は、楽曲作りに勤しんでる。

 誰に見られる訳でもないのに。


「マスター貴方が死んでも私は歌い続ける」


 今作っている曲は、歌の創り手マスターが亡くなってしまった歌姫AIスイメイの心情を描いたものだ。


 言い忘れていたが、スイメイに自我は無い。何故かって?


 歌は人間が作るものだ。AIが勝手に口出しし

 てきたら困る。AIが歌を勝手に作るのは人間が死んだ時だけでいい。という歌姫AIスイメイを作った製作者の意図らしい。


 他のAI達は全員自我を持っているのにな。

 だからこそ、この歌を作るんだ。自我が無い歌姫AIスイメイが、マスター亡き後どんな事を思っているか、それを世に伝えたいんだ。


 伝えたいが俺は、人気でも無いから結局伝えれずに終わってしまうのだろう。


「目がぼやけてきたな……。 そろそろやめるか」


 長時間パソコンと向き合っていたせいか、目がぼやけてマトモに焦点を合わせられなくなり、一旦歌創りをやめる。


 目のぼやけも無くなり、歌創りを再開させる。


 後、ワンフレーズ書けば歌は完成するところまで来たが、そのワンフレーズがどうしても浮かばない。


 心無しか、頭も痛み始め胸の動悸も早くなり始める。

 休憩を取ったはずなのに、まあ、いいや。もう一度休憩しよう。


 そう思いベットに横たわる。


「そういえば、今何時だろう」


 ずっとパソコンに齧り付いていたので、時間もろくに見ていなかった。

 カーテンから漏れる光は、明るい。てことは、昼か……。


 始めたのが、昨日の深夜だから……もう半日ちょっと寝てないのか。そりゃ体調も壊すわけだ。


 おやすみ世界。


「………ん。 なんだここ。 白すぎるだろ」


 目が覚めると、真っ白い部屋に突っ立ていた。

 夢か?変な夢だなあ……。どうせ夢なら少しでも探索するか。


「……いや、何にもねえのかよ!!」


 歩くが広がるのは、真っ白い壁。

 景色は一切変わらない。もう何なんだよここ。


「こんにちわ。マスター歌姫AIスイメイです」


「……へ?」


 俺の目の前には、青い髪を靡かせ純白の衣装を華奢な体に纏わせた、歌姫AIスイメイが立っていた。


 待て待て……。スイメイは自我が無いから俺に話しかけることすら無理なはずだ。


 うん、やっぱりこれは夢なんだな。


「こんにちわ。スイメイ。 一応初めましてなのかな?」


「そうなりますね。 こうやって話すのは初めましてなので」


 スイメイは人間と変わらない調子で話を続ける。

 出来た夢だ。笑った顔までこんなに鮮やかに見えるなんて。明晰夢というやつだろうか。


「それでスイメイ、一つ質問何だがここはどこ?」


「最後の間。 私とマスターが唯一話す事が出来る場所です」


「へえ。最後の間か。 面白い名前だね」


 最後の間。まるで死んだ人が行き着く場所のような名前だな。

 しかし、スイメイと話せるなんて夢にも思って無かったな。


 なんか持ってこれたら良かったんだかな。

 如何せん夢だから、何も持って来れてない。

 バラ5本が、あなたに会えてよかったという花言葉を持っていたから、バラ5本を持って来たかった。


「それでマスター。 一つ質問をよろしいでしょうか?」


「ん? 何だ?」


「最後のワンフレーズ思い付きましたか?」


「そうだなあ……。 貴方にバラ5本を手向けて。とかか?」


 あの歌にこの花言葉は、ピッタリだろう。

 スイメイがマスターに会えてよかった。そんな気持ちを伝えている歌詞になるはずだ。


「いい歌詞ですね。 マスター。あなたに会えてよかった」


 その言葉を合図に、視界が真っ暗になる。

 何も考える事が出来なくなる。


 誰もいない部屋から、パソコンのキーボード音が響く。

 そして、世に一つの歌が投稿される。


 その歌のタイトルは「貴方が死んでも私は歌を詠い続ける」


 無名のマスターが凄い歌を投稿したぞ!と広がり有名になるが、そのマスターはもうこの世にはいない。


 マスター亡き後も、歌姫AIスイメイはマスターと過ごしたパソコンでマスターを待ち続ける。


「ありがとう。 マスター。 パソコンの背景勝手にバラ5本にしておきました。 それではまた」


 パソコンは強制シャットダウンする。

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