最終話 笑い声


〜〜ゼロ視点〜〜


 俺はヒポポダーマに乗り、妹が入院しているサードナルへと向かった。

 


──3日後。



ーーサードナルの病院ーー


「お兄ちゃん、来てくれたんだ!」


 妹のイチカはベッドの上から笑顔を見せた。


 会うのは1年振りか……。

 随分と痩せているな……。

 

 俺はイチカと久しぶりの再開を楽しんだ。

 魔剣ラルゥに出会ったことも、全てを話す。


「お兄ちゃんが来てくれるだけでとっても嬉しい……。ゴホッ! ゴホッ!! な、なによりの薬になるわ。ゴホッ!!」


「おいおい。無理するな少し休め」


「う、うん……。ごめんねお兄ちゃん」


 俺はイチカの担当医に会うことにした。


 


ーー客室ーー



「イチカさんは危篤な状態です」


 細い目の医者は、自慢の髭をビヨーーンと伸ばした。


「治療する方法はないのですか?」


「ありますけどね……。ゼロさんに払えるかどうか……」


 そう言って俺のバッジを見つめる。

 俺は単独になったばかりで一番最底のF級バッジをしていた。


「あなたの等級じゃ、とても払える額ではありませんよ」


 確かにF級の実力なら難しい金額だな。

 でも俺には、今まで貯めた貯金と、S級ダンジョン攻略の報酬があるからな。


「金はあります。最高の治療をしてください」


「はん! あなたは現実をわかっていない!! イチカさんの治療には10人の神官が必要でしょう。それを雇う費用を考えてごらんなさいな。1人10万エーンとすれば100万エーンもかかるのですよ!」


 なんだ。大した額じゃないな。貯金が126万エーンあるから、それだけで足りそうだ。


「やってください!」


「え!? あ、いや……でも、いいですかゼロさん、この治療に借金はできませんよ!!」


「勿論、現金で払います!」


「……そ、それだけじゃありません! 体の傷を癒すのにS級僧侶が10人必要です!! こちらも1人10万エーンは必要です!! そうなれば合計200万エーンですよ! F級冒険者の収入じゃあとても払える金額ではないでしょう!!」


 おっと、貯金額を超えてきたな。でも全然余裕だ。


「やってください!」


「え!? え!? ほ、本当にお金持っているんですか!?」


「安心してください! 現金で払いますから!!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。じゃ、じゃあ全部の治療費を計算してみますからね!」


 そう言って紙に書いて計算を始めた。

 先生は小声で「ちくしょう、見てろよぉ」と呟いていたが、なんのことだかさっぱりだ。


「設備費用。人件費、薬代、その他諸々! 合わせて500万エーンです!!」


「それで全部ですか?」


「ひひひ。実際はもっと掛かるかもしれませんよ。やってみなくちゃわかりませんからね。こんな額、貴族でもないあなたがとても払えるものではありませんよ。S級冒険者でも尻込みする金額です」


「払う」


「へ?」


「払うと言ったんです」


「いい加減にしなさい!! こんな大金を持ったF級冒険者がどこにいるというんですか!? あなたの嘘に付き合うのは疲れましたよ!!」


 俺はテーブルに金貨の袋を積み上げた。







「全部で799万エーンある! イチカには最高の治療をしてください!!」






 担当医は目玉をひん剥いた。顎が外れるくらいにあんぐりと開ける。



「あ……あが……。あがが……」


「これじゃあ……足りませんか?」


  

 俺は 収納斬ストレイジスラッシュを使って金銀財宝を取り出した。あの 火馬かばのダンジョンで手に入れたお宝である。

 その煌びやかな装飾品の数々に担当医は悲鳴を上げた。



「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! す、凄ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


「やってください先生!!」


「や、やりますぅうう!! やらせていただきますぅううううううううううううう!!」


「ありがとうございます!!」



 こうしてイチカの治療は始まった。勿論、サードナルでも最高の治療だったのは言うまでもない。









──1週間後。



 病院前にある野原を駆け回るイチカの姿があった。



「あはは!! 外を走るなんて何年振りだろう!」



 その顔は血色がよく、頬はふっくらと膨らんでいた。

 人化したラルゥは微笑む。


「イチカさんすっかり良くなりましたねぇ」


「ああ……」


 本当に、元気になって良かった。


 ジワリと出た涙をラルゥが拭う。


「ご主人様……良かったですね」


「ああ……。ありがとなラルゥ」


 野原の花と遊んでいたイチカは俺の元へとやってきた。


「お兄ちゃんに、お金一杯使わせちゃったね」


「気にすんなよ」


「でも……。凄い大金だったし……」


 俺達兄妹は貧乏だったからな。お金にはシビアなんだ。


「心配すんな。これからはもっと楽になるから」


「ほ、本当?」


「ああ。俺はS級のダンジョンを潜って稼ぐからな」


「凄いね! 流石はお兄ちゃんだ! 私も働くよ!!」


「お前はやることがあるだろ?」


「え? なんだろ?」


「入院中はずっとベッドで寝ていたんだ。学校に行って勉強しなくちゃな」


 イチカは賢者学校に憧れていた。俺はこっそり入学手続きを済ませておいたのだ。


 学校へ行けることを知ったイチカは涙を流して喜んだ。


「お兄ちゃん……。ありがとう」




 それから2人で両親のお墓参りをして、俺とラルゥは王都コルトベルラへと帰った。











◇◇◇◇






ーー王都コルトベルラーー






 そこは豪華な宿屋だった。ギルドの2階みたいに騒がしくなくて、ゆっくりとくつろげる。


 そんな宿屋の一室は今日も騒がしい。



「ああ〜〜! ゼロ様お強いですの〜〜」


「ゼロお兄ちゃん、マチェット強すぎぃい。ポーまたビリになっちゃったよ〜〜」


「くそぉお。1位はゼロかぁ。悔しいなぁ。なぁ、もう1回みんなでやろうぜ!!」


 

 色とりどりの商人の形をした駒がボードの上に並ぶ。

 みんなで過ごす最高の時間である。

 


「なぁ、ゼロ。もう1回! いいだろ?」


「いや、明日はS級ダンジョンに潜るんだぞ。早く寝ないと計画が狂うじゃないか」


「頼む! 次は勝つ! な! 頼む!!」



 みんなはマヒルの言葉に同調した。

 俺の返答を心待ちにする。


 やれやれ。


「仕方ない。1回だけだぞ」


 俺の言葉にみんなは飛び跳ねて喜んだ。


「ご主人様! 次は私が勝ちますよ!」


 人化したラルゥもマチェットは大好きである。


「じゃあ、時計回りだから、次はラルゥがサイコロを振る番だな」


「あは! よぉおし、良い目を出しますよぉおお!!」


 サイコロを両手に包んで振る。








「いきますよぉ〜〜。それぇえええええええ!!」








 みんなの笑い声が宿屋に響いた。





〜〜Fin〜〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貧乏剣士と成長する魔剣〜魔剣に呪われた俺。A級パーティーからダンジョンに置き去りにされる。奴らは俺の預金通帳まで奪った。なるほど、この魔剣はレベルが上がるのか。お前達、首を洗って待ってろよ〜 神伊 咲児 @hukudahappy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ