第28話 仲間想い
〜〜マヒル視点〜〜
あたしの名前はマヒル・ダンスチール。職業盗賊。
仲間の治療費を稼ぐ為、今は少し無理してS級である竜のダンジョンに潜っていた。
ーー地下3階ーー
「マ、マヒルちゃん! ここのドラゴン強いですの〜〜!!」
銀髪の魔法使いネリザベスは、敵の攻撃を魔法防御で弾きながら眉を寄せた。
そう言われてもね。あの子の為にも稼がなくっちゃいけないんだから。
「ネリザベス! もうちょっとがんばって! まだ魔硝石が20個しか取れてない!!」
仲間の一人、剣士リーゼラは入院中である。前回の冒険で大怪我をさせてしまった。
なんとしてもその治療費を稼いであげたい。
目の前にいるフレイムドラゴンはたった1匹だ。みんなの力を合わせれば、きっと倒せる。
フレイムドラゴンの炎攻撃が続く。
「きゃぁあ!! 私の魔法防御でも厳しいですの〜〜!!」
思いのほか、炎攻撃が強い。
「よっしゃあ!! わだすが相手だぁ!」
後退するネリザベスに代わって前に出たのは戦士タッコだった。
「ネリザベスは後ろに下がっときぃいい!! ここはわだすがやるっぺよぉお!!」
若干、話し方に癖があるけど、メンバー1のおしゃれ好きでスタイル抜群。胸が一番大きい美少女だ。
そんなタッコは大きな岩を持ち上げてドラゴンの吐く炎を防いだ。
「マヒルゥ! わだすの岩でもこの炎は防ぎきれないっぺよぉ!! 早く攻撃してけろぉ!!」
「そうしたいのは山々だけど、あの炎を防げないと攻撃できないんだ!!」
参ったね。攻撃する人数が足らないから撹乱戦法が取れない。
賢者のポーは涙目になった。
「ねぇねぇマヒルゥウ。もうポーの魔力は限界だよぉお。回復魔法が使えなくなっちゃうぅう!!」
彼女はメンバーの中で一番背が低い。とても同じ歳とは思えない童顔さだ。
そんな見た目どおり、甘えたで泣き虫である。
どうしよう……。回復魔法が使えないんじゃこの先とても進めそうにないな。
「し、仕方ない。撤退しよう!!」
後ろに振り返ったあたし達は絶望した。
「「「「 なッ!? 」」」」
帰り道を防いでいたのは3匹のフレイムドラゴンだった。
た、たった1匹でも苦戦してるのに……。それが3匹も……。
で、でも、やるしかない!!
「みんな! がんばれ!! ここはなんとしても突破するんだ!!」
しかし、フレイムドラゴンの炎攻撃は凄まじかった。
「きゃあああ!! 熱いですのぉおおおお!!」
「熱ぢぃいいいいいいいい!! わだすもたまんねぇええ!!」
2人は大火傷。あたしもかなり火傷している。でも、2人の治療を優先しなくちゃ!
「ポー! 回復魔法を2人にかけるんだ!!」
「無理だよぉお〜〜! ポーの魔力が底を尽きたよぉお! うえ〜〜〜〜ん!!」
仲間達は火傷のダメージに耐えきれず動けなくなった。
もう、か弱い女の子のように泣くだけ。
ど、どうしよう……。マヒルのパーティー始まって以来の大苦戦だ。
こ、こんなことなら、ゼロの言うとおりダンジョンの等級を落としておけば良かった……。
「「「 うう……ううう………… 」」」
みんなの啜り泣く声がダンジョンに響く。
あたしだって泣きそうだ。
で、でも、生まれてこの方、泣いたことなんて一度もない! 男にイジメられたって泣かなかった。逆に泣かしてやったくらいだ。
滲み出る涙をグッと堪える。
そんな恥ずかしいことできっかよ! 最後は立派な冒険者らしく、戦って散ってやる!!
その時、フレイムドラゴンがあたしの右手に炎を浴びせる。
「熱ッ!!」
その瞬間、持っていた短剣を落とした。
もうこれで戦うことすらできない。
「ちくしょう!! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
フレイムドラゴンの炎があたし達を包み込む。
ああ、燃やされて終わりだ。
悔しいなぁ。こんな人生の終わり方かよ。
冒険に明け暮れて、恋をしたことが無かった。一回くらい、女の子らしくしたかったな……。
そう観念した、その時。
「
その声と同時。大量の水が出現して、竜の炎をかき消した。
え!? 誰ッ!?
声の先には変な仮面を被った男が1人。片刃の黒い剣を持って立っていた。
男が飛び跳ねると斬撃音がダンジョンに響く。
ザ ン ッ !!
刹那、4体のフレイムドラゴンの首はボトリと地面に落ちた。
い、一瞬で倒した!?
す、凄い腕だ!?
男はドラゴンが絶命したことを確認するとあたし達の元へとやって来た。
「この中で回復魔法を使える者は?」
そう聞くので、賢者ポーが名乗り出た。
「ポーが使えるんだけどね。魔力が切れちゃったの」
男は剣身をポーに向けた。
「
剣身から発せられる淡い光りがポーを包み込む。
途端にポーの口角が上がった。
「わぁ〜〜! 魔力が少し戻ったぁあ!!」
「この回復スキルは1日1回しかできないんだ。でも魔力も回復するから、それで仲間達を治してやってくれ」
「あ、ありがとお!!」
ポーは喜んでお礼を言うと、私達の火傷を回復させた。
い、一体何者なんだ、この男!?
……うーーん。どこかで聞いたことのある声なんだけど……。
それにあの片刃の剣……。
詮索するより、まずはお礼が先か。
仲間達が男にお礼を言っている中、あたしもその中に入った。
「ありがとう。あたしらを助けてくれて」
「うむ。別に大したことではない」
「いや、凄いよ。あのフレイムドラゴンをたった1人で倒してしまったんだからな。相当な腕前だ。あたしはマヒル。あんたの名前を教えてくれよ」
「いや、別に名乗るほどの者ではない。たまたま通りがかっただけだけだから」
「こんなS級ダンジョンにたまたま通りがかる人間なんかいるかよ!」
「本当に偶然だから。気にするな! では!」
男は去ろうとして背中を向けた。
「お礼もせずに帰させるかよ! タッコ、捕まえてくれ!」
「あいよ!」
タッコは勢いよく飛び上がり掴みかかった。大きな胸の間に男の顔を挟み込む。
男はバタバタともがいた。
「わぁ! バカ! やめろぉお!!」
「誰だがわかんねぇが、こったら仮面取って顔見せてくんろ!!」
仮面を剥がすと、そこには知った顔があった。思わず叫ぶ。
「ゼロ!!」
やっぱり思ったとおりだ!
あたしの確信と同時。仲間達はゼロに抱きついた。
「ゼロ様! 助けてくれて嬉しいですの!!」
「ゼロお兄ちゃん。ポーを助けてくれた〜〜。ありがとお〜〜」
「ゼロさん、無理矢理仮面を剥がして勘弁してけろ! でも、わだすも嬉しいっぺよ!!」
ゼロは頭をかきながらバツが悪そうにした。
「あーー。べ、別に助けるつもりはなかったんだ」
よく言うよ。きっと心配して来てくれたんだ。
「本当に通りがかっただけだからさ。気にすんなよな」
そんなこと信じる訳ないだろ!
それに……私は謝らないといけないんだ。
「ゼロ……。ごめん。あ、あたし……。あんたの忠告を無視しちゃった……」
キツく怒られるかと思ったけど、ゼロは気恥ずかしそうに笑うだけだった。
「別に気にしてないよ。命が助かったから、良かったじゃないか」
なんだろう。この人の顔を見てると、物凄く安心する。
気づけば涙がポロリと溢れていた。
「あ、あれ……? なんで……??」
ゼロは焦る。
「おいおい、大丈夫か!? 怪我が痛むのか?」
あ、ダメだ。涙が止まらない。
命が助かってホッとした気持ちと、彼の優しさが嬉しくて、なんだかよくわからない感情が込み上げてきた。
あたしは滝のように涙を流す。
「おいマヒル、大丈夫か!?」
「怖かった……」
「え……?」
もう言ってしまおう。初めてこんなことを話すけど、彼ならば聞いてくれるだろう。
「生まれて初めて全滅すると思った……」
気づけばゼロに抱きついていた。
「あたし……怖かったよぉおおおおおおおお。うえぇえええええええええええええええええええん!!」
ゼロは小さな声で「そうか、がんばったな。偉いぞ」と言って、あたしの頭を優しく撫でてくれるのだった。
◇◇◇◇
夕方。
あたし達は、ゼロにダンジョンの外まで送ってもらっていた。
「ありがとう。何から何まで……」
「いや、気にすんな。仲間の治療費を稼ぐ必要があったんだろ?」
「え? どうして知ってるんだ?」
「……ギルドで少しな。噂話を聞いたんだ」
「ははは……。仲間の為に無理して全滅しかけたんじゃ意味ないよな。恥ずかしいや」
「んーー、嫌いじゃないよ。そういうの」
「…………」
ゼロは鼻先をポリポリとかいた。
「俺はこれから妹の病気の治療でサードナルに行くんだ」
「……そうなんだ。なんか悪いな、用事があったのにあたしらに付き合わせてさ」
「まったく……。世話が焼ける奴らだよな」
「うう……。反論できない」
「俺が見てないと危なっかしいや」
「つ、次は等級を落として冒険するよ! 絶対無理しない」
「そうは言っても仲間が1人足りないんじゃ大変だろ? またピンチになるかもしれん」
「そ、それは……」
「仕方ないから仲間になってやるよ」
「え?」
耳を疑った。
彼を見ると、屈託のない笑顔でこちらを見ている。
もう一度言ってくれた、彼の言葉に心が震えた。
「俺が仲間になってやるよ」
あたし達はゼロに抱きついた。
歓喜の声を、それぞれが口にする。
夕日に染められた私達は、その影を地面に写した。みんなのはしゃぐ姿が目に焼き付く。
あたしはこの喜びを、生涯忘れないだろう。
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武器:魔剣ラルゥ。
魔剣レベル:12。
魔剣スキル:
住居:ヒポポダーマの屋敷。
従獣:ヒポポダーマ。
仲間:盗賊マヒル。魔法使いネリザベス。戦士タッコ。賢者ポー。
アイテム:金銀財宝多数。
ラルゥの好感度:♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
マヒルの好感度:♡♡♡♡♡
ネリザベスの好感度:♡♡♡
タッコの好感度:♡♡♡
ポーの好感度:♡♡♡
所持金:799万エーン。
貯金:626万エーン。
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