第22話 悶々

夜になり布団に入っても、そのどうしようもない考えは止まることがなかった。

明日はコマちゃんの誕生日で、朝からサプライズをしようと麻里奈が言い出したため、準備室に行くことができない。それはもう予め今日カズに伝えたし、カズも「いいね、学生っぽい」なんておじさんのような返答をしていた。私と一日会えないことなんて気にもしていない風だった。


もしかして、私や日吉の他にも、カズに会っている人がいるのではないか。この時、始めてそういう発想になった。

カズは自分のことに関しては全く話そうとしない。いつも私の落ちのない話を楽しそうに聞いてくれる。そのため、私の周りの交友関係は大体把握しているはずだ。

それに比べ私は何も知らない。本当に、何一つとして、誰一人として知らない。

準備室以外での生活も一切覗かせないし、誰の存在も匂わせない。言ってみれば完璧なアイドルのようだ。私たちには、準備室での姿しか見せない。

明日も明後日もカズがいる保証はない。今頃カズは何をしているだろうか。


ふとあることを思いつき、寝っ転がったままスマホを手に取る。ちょうどそのタイミングでピロンッと通知が鳴り、麻里奈からのメッセージが表示された。

『明日のコマちゃんの誕プレ、色々買ったから、一人3200円で!(笑)』


「は?」と思わず声が出た。

それは私と有佳子に送られたものだった。


先日、突然コマちゃんにサプライズしたいと言い出した麻里奈に、有佳子が「用事があって買い出しに行けない」と答えた。すると麻里奈は「私が買っておくから」と返した。ちょっとしたサプライズだと思っていた私は「後で値段教えて」と了解したのだった。


しかし3200円なんて、三人で割ったとしたら、一万円近くかかっていることになる。

私は体を反転させて布団に両肘を付き、画面をもう一度見たが、やはりそう書いてある。

高校生の誕生日祝いにそれだけかけるのはおかしい。しかも、私たちはお互いに特別誕生日を祝った習慣はない。せいぜい「おめでとう」と伝え食堂や売店でおごったり、コンビニスイーツにマジックでメッセージを書いて渡すくらいだ。どうして急に。

ピロンッ。

また通知がなったので画面に目を落とすと、麻里奈からSNSの投稿を保存したものが送られてきた。

『こういうのがしたくて!』


そこには、学校の机の上に山盛りに乗せられた上等そうなお菓子やホールケーキ、それにティアラを頭に乗せた制服の女の子の画像と共に、“サプライズ成功!カレン誕生日おめでとう♡”という文字が並んでいた。その“カレンちゃん”は手にそこそこのブランドの紙袋を持っている。メイクなどに興味のない私でも知っているようなブランドで、決して手が届かない訳ではないが、高校生がそう頻繫にプレゼントするものではない。


しかしこれで納得した。麻里奈はこのような豪華なことをして周りに注目されたいのだ。承認欲求の強い彼女のことだ。その後はSNSに投稿し、クラスメイトよりも更に多くの目に晒すのだろう。

こんな分かりやすい一連の動きに付き合わされる事にため息が出た。


どう返信しようか。『買い出しありがとう』とは口が裂けても言いたくない。

鏡を見なくてもわかるくらい口がへの字に曲がった私が画面を睨んでいると、有佳子からの淡泊な返信が表示された。

『りょうかい』


有佳子も何を考えているのかわからない。私と同じような結論に行きつき歯痒い思いをしているのだろうか。

仕方が無いので私も『おっけー』と入力し、さすがに無愛想かと送信する手をいったん止め、文末に腕で丸を表している人の絵文字を付けてみた。

それまで送信してしまった後、私はスマホを手に取った本来の理由を思い出して日吉の連絡先を探した。

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