第10話 告白

そして次に私がカズに会うのは翌々日になった。

今日を逃したら土日を挟んでしまうので、思い切って足を運ぶことにしたのだ。

昨日も行こうか朝家出るまで物凄く悩んだのだが、前のめりだと思われたら嫌なので一日あけてみた。


昨日はいつものように遅い時間に家を出たが、日吉には会わなかった。

また早く登校して京子先輩の手伝いでもしていたのだろうか。

そう思っていたがそれは正解のようで、三十分早く出た今日は日吉に遭遇した。

いや、遭遇したという表現は適切ではないようだ。

「おはよ、今日は早く行ってねえんだ」

坂道との合流地点には、ポケットに両手を突っ込んだ日吉が電柱にもたれかかって立っていた。

「早く行ったの昨日だけじゃん。なに、待ってたの?」

「うん、ちょっと話あってさ」

予想外の返しに思わず身構える。

直感で聞きたくない話のような気がして、怪訝そうな顔をしてしまったかもしれない。

意図的に表情筋をほぐし、

「なにその改まった言い方ー」

と足を進めた。


今日も急ぎ足で歩く。

日吉は「なんかあんの?」と親鳥を追う雛鳥のように張り付いて尋ねる。

「別に。なんかあるのそっちでしょ?」

仕方なく促すと日吉は何の前置きもなく

「先輩と付き合うことになった」

と言った。

心臓が一瞬どくんと動いた感じがした。


「えっ、良かったじゃん。やっぱ狙ってたの?」

我ながら上手く弾んだ声が出せたと思う。

「なんか嫌な言い方すんなよ」

照れたように笑う顔を見ながら、私は恋バナに食いつく二宮空を創る。

「いつからそんな感じになってたのよー、話してくれてもいいのにぃ」

日吉は分かり易くにやにやしている。

「前からいいなあって思ってたけど全然上手くいってなかったからさ、恥ずかしいじゃん」

「なによ、私たちの仲じゃない」


私たち仲ってなんだ。よくわからない。

それなのに、そんな言葉はサラリと出る。

私と居るだけじゃ、日吉は物足りないのだろうか。

今になって初めて認識したが、私の中では日吉の存在は大きかった。

他の誰とも違う空気感が、心地よかったのに。

「まあなー」

なんて吞気に微笑む顔をちらりと見やる。

「俺さ、はっきりと言ったのは今回が初めてだけど、何回も振られてるようなもんなんだよ」

何も聞いていないのに、ペラペラとよく喋る。

「遠回し言っても遠回しに断ってくるんだぜ、先輩」


どういう状況なのか、詳しくはわからなかった。

京子先輩の、ぱっつんと揃った綺麗なボブにセンター分けのかっこいい前髪が頭の中に浮かんだ。その端正な顔はキリっとしていて、あまり笑っているイメージはない。

まあこれはみんなが、サッカー部のマネージャーの京子先輩が美人だ、かっこいいなどとチヤホヤするため、有名な人を私が一方的に知っているだけであって、話したこともないのだから当たり前かもしれない。


そう考えると、そんな先輩と付き合ったなんて、日吉は凄いなと素直に思った。

でも日吉も二年生の中ではモテる方だと思うし、そんな日吉のアタックをかわし続けた京子先輩も芯のある人だな、なんて批評してみる。


「ほんと、おめでと」

私は口角をクッと上げてそう口に出した。

「いやあ~俺、頑張ったくね?」

知らないし。私、何も聞かされてなかったし。

「うん、あの京子先輩でしょ。高嶺の花じゃん」


秋の風が流れる。

木はすっかり衣替えしたようで、気についた葉っぱまでもが土みたいな色だ。

カサカサに枯れた葉が、ほろほろと床に散った。

隣の彼は今日も、「金木犀の匂い」と鼻をスンスンさせた。




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