社畜道 極めてます
―――社畜は一日してならず。
誰が言ったのか。
名言っぽく言えばなんでもいいってもんじゃないと思う。
社畜の朝は早い。
今日も今日とて日の出と共に起床する。
「太陽さんおはよう! 朝なんてこなければいいのに!!」
我ながら元気よくバカらしいことを言ってると思う。
それでもなにか悪態をついていないとやってられないのだ。
なにせ仕事が始まれば、悪態をつけられるのは私になるからだ。
それならばと、お日様に悪態をついてもいいのではないだろうか。
いいや、よくはないと思う。
「さてさて、今日のご機嫌な朝食はなんでしょうかね♪」
朝の食事は社畜にとって、一日の生命線だ。
なにせこれを食べておかないと深夜まで飯にありつけないかもしれないからだ。
「おっと―――なにもない」
冷蔵庫を開けてみるがそこには、新品さながらの空っぽ状態だった。
「あちゃー昨日の晩になにか買っておくべきだったか」
こりゃしまったしまったと、わざとらしく自分の頭を叩いてみる。
誰に見られているわけでもないし、別にいいのだ。
自分の頭がおかしくなっていることくらい十分理解している。
「しまったしまった、しまくらちよこだな」
さっむい世代はずれのギャグをひとつかまして、私はうーん頭を悩ませる。
さて、ほんとうにどうしたものか。
あいにくと社畜の朝は忙しいのだ。
睡眠時間に全振りをかましてる私のモーニングタイムは、早々にタイムアップを迎えるだろう。
「あ! そうだ! 会社を休んでしまえばいいんだ!」
そうだよそうだよ!と勝手に一人でウキウキ気分を満喫する。
さーて今日は何をしようか。
わざと毎朝乗ってる出勤の電車に乗って、目の死んだ社畜達を嘲笑うか。
それとも、小洒落た喫茶店で、道行く、目の死んだ社畜達を嘲笑うか。
はたまた、駅のベンチに腰掛けて、目の死んだ社畜達を嘲笑うか。
むちゃくちゃ趣味の悪いことしか思いついてない。
いやいや、休むならもっと有意義なことに時間を割こう。
まずは喫茶店で優雅な朝食だな!
なにせ腹は減っている。腹ごしらえは必須でしょうよ。
「そうと決まれば準備だ準備! 貴重な時間は刻一刻と過ぎていくのだ!」
私はいそいそと、いつもきているスーツを羽織る。
鞄の中身をチェックして持ち帰った仕事の資料を鞄に詰め込み。
忘れものがないか再三確認する。
「えっと、今日は会議があるからこの資料と、あ、あとこの参考資料も」
床に散らばった資料の束をこれでもかと鞄に詰め込む。
パンパンになった鞄からは悲鳴が聞こえているが、それは無視する。
無視された悲鳴の代わりか、私の肩にはその重さがずっしりとのしかかる。
「おおう。乙女にはつらい重さだぜ」
よろめくことはご愛嬌。だって日々の社畜業で私の身体能力はガタ落ちだ。
「でも、だって、今日はズル休み〜♪ 仕事のことなんて〜♪ 忘れてバカンス〜♪」
音階ガタガタのズル休みの歌を口ずさみながら私は、ルンルン気分で家を出る。
―――そして
いつもの満員電車に乗り、
いつもの通勤路を歩き、
いつもの会社に到着するのだ。
ああ、なんて素晴らしきかな、社畜の習性。
社畜は一日にしてならず。
【短編】3分でスッと読めちゃう短編集 遠見 翔 @tomisyou
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