エクストリーム・ポイント活動

ちびまるフォイ

みんなポイントが大好き

「お客様、ポイントカードはお持ちですか」


「え? いや、ないです。なんのポイントですか」


「お食事ポイントです。食事をすると貯まるんですよ。カード作ります」


「ああ、お願いします。損したくないんで」


お食事カードを作るのに10分もかからなかった。

自粛期間もあり外食産業を助けるために作られたカードらしい。


その日から食事は常にカードを持ち歩くようになった。

財布の一番目に付きやすいところにお食事カードが挟められている。


「ポイントカードはお持ちですか?」

「もちろん」


「ではポイント試させていただきます。

 おや? お客様……ポイントが2000pt貯まっています」


「2000ptでなにかあるんですか」


「お支払いをポイントで精算することもできますが、いかがしますか」


「食事して貯めたポイントで支払いもできるんですか!?」


「ええもちろん。お食事ポイントですから」


なんてお得なポイントシステムなんだろう。

これなら永久に食事が無料で取れるんじゃないだろうか。


さらに調べてみるとポイントを消費してブーストすることもできる。


ポイントを使ってポイントブーストすると、

1回の食事で得られるポイントの量が大きく増える。


これを使えば食事をポイント支払いしたとしても、

プラスマイナスで「プラス」にすることができる。


こうなったらもうやめられない。


「お客様、お支払いは?」


「ポイントで」


ドヤ顔で店員につげる。


普段の自分ではとても足を運べないような高級店でも、

ポイントを使えば無料で飲食できるうえ、結果的にポイントは増える。


使い切れないほどのポイントは食事以外の買い物や光熱費などの支払いに当てる。

最後に自分のお金を使ったのがいつかわからない。

あらゆる生活の支払いはポイントで済まされていた。


「これポイントだけで生活できるんじゃないか……!?」


そのことに気づいた俺は翌日に会社で辞表を突き出した。


「辞表って……君、本気かね!? まだ入社して3日だぞ!? 退職金も出ないぞ!?」


「ええ、もちろんです部長。俺はあくせく働くよりも、ずっと楽で人間らしい生活をするすべを知ったんです」


「それはいいが……だいぶ太ってないか」


「部長、これからやめる部下にしょうもない悪口はいらないですよ」


めちゃくちゃ努力してやっとこさ入社できた会社から3日で退陣した。

でもけして惜しくはなかった。


「ふっふっふ。これでますますポイント活動の人生ができる!!」


これまでは仕事という時間的な制約があるせいで、

お食事ポイントの貯蓄に本気が出せなかった。


けれど今日からその制限もなくなり、24時間好きなだけポイントを貯める生活ができる。


1日3食ではもったいない。

1日5食をして大量にポイントを貯めまくる。


食事をするたびに使えるポイントが増えていくのだからたまらない。


「ようし、今度は車を買うためにポイントを貯めまくるぞーー!!」


食事を取る店も味や人気などおかまいなしにポイント還元率の高い場所を選ぶ。

選ぶ料理もいかにポイントが貯めやすいか、が判断基準。


それ以外の要素はどうでもいい。

食事はポイントを貯めるための"仕事"になった。


ある日のこと、洗面台の鏡の前にたったとき。


「……本当に太ったかも」


食事に必死で自分の顔なんてしばらく見ていなかった。

けれど部長のいうように太った気がする。

下っ腹も出てきたし、なんだか体も重い。


「最近はポイント効率のいいカラアゲばっかり食ってるもんなぁ。

 でもダイエットなんかしている時間はないし。

 ……っと、もうこんな時間だ。ポイント貯めにいかないと」


いつも使っている餌場へと、タクシーで向かった。

支払いはもちろんポイント。


「お客さん、どちらまで?」


「〇〇丁目にあるカラアゲ専門店までお願いします」


「え、お食事されるんですか」


「なにか変なことでも?」


「ニュース見てないんですか。外食は今禁止されてますよ」


「なんだって!?」


慌ててポイントで買った最新スマホからニュースを確認する。

タクシーの運転手の言ったとおりだった。


「か……感染拡大で外食禁止令……?」


「いまはどこも営業してませんよ。行くだけ行きます?」


「そんなことしたらポイント減っちゃうだろう!

 俺は損をするのが大嫌いなんだよ!!

 それより、これじゃポイント貯められないじゃないか!」


「私に言われても困りますよ」


「と、とにかく! 営業している場所があるかもしれない!

 片っ端から食事が取れる場所に行ってください!!」


食事をしなければポイントは貯められないが、食事をする場所がない。


自分の生活はポイントですべてまかなっているので、

ポイントが貯まらないと生きて行けない。


タクシーを街のすみずみまで走らせたが、お店はどこも閉まっていた。


「お客さん、もう諦めましょう」


「こっちは生活がかかってるんですよ!

 ポイントは使わないと失効するんです!!

 1億ポイント持っていても、使わなきゃゼロになるんです!」


「そんなこと知ってますよ……」


「いいえ! あなたはそこまで貯めてないからこの喪失感がわかってない!

 もういい! ここでおろしてください!」


「お客さん、どうするつもりですか!?」


「店が閉まってるっていっても、料理が作れないわけじゃないでしょう!?

 シャッターこじ開けてでも飯を食わせてもらいますよ!」


タクシーを降りると営業していないお店のシャッターを叩きまくる。


「開けてくれ!! ポイントが失効してしまう!!

 俺に飯を食わせてくれ!!」


ポイント失効まであと数時間。

はやく何かしらに使わないと失ってしまう。


何度も叩くと迷惑そうな顔をした店主が外へ出てきた。


「うるさいなぁ、あんたいったいなんなんだ」


「いいから早く料理を出してください!

 ポイントで支払いはするからはやく!!」


「いきなりきて料理を作れだなんて……なんて勝手な」


「こっちは1億ポイントがかかってるんだよ!

 料理を出してくれたらポイントで欲しい物を買ってやる! 早くしてくれ!!」


「え、ええ……?」


店主はものを買い与えられたいというよりも、鬼気迫る顔に気圧されてしかたなく店を開けた。

こんなやばいヤツは言うとおりにしてさっさと帰らせようという意思が見える。


「早く……早く、早く飯食って支払わせてくれ……!」


残り数十分。

食事が遅れればすべて失ってしまう。


「できました。カラアゲ定食です」


「よ、よし! 間に合いそうだ!」


もはや食事の味なんてどうでもいいし気にしてなかった。

運ばれた食事を動物のように食い散らかす。

さっさとポイントを使って期限延長できればなんでもいい。


そのとき。


「ぐっ……!? ん、んぐっ……!?」


食事をすすめる手が止まる。

ろくに噛まなかったご飯が喉で渋滞を起こして息ができない。


「がっ……た、たすけっ……」


食事に必死で水なんて用意されていなかった。

息ができないので声も出せない。


まさかこんなことで死ぬなんて。



「まだっ……ポイント……残って……」



脳に酸素が届かなくなるとまもなく視界は真っ暗になった。






次に目を覚ましたのは病院だった。


「あ、あれ? 死んでない……?」


「店主に感謝したほうがいいですよ。

 あなたが倒れているのを見て、必死に助けたんですから」


医者はあきれた顔で告げた。


「そ、それより! 今何時ですか!?」


「時間? 午後7時です。あなたは半日ほど意識を失っていたんですよ」


「午後7時……そんな……ポイントが……」


最後にかけこんだ料理屋さんではまだ支払いをしていない。

ポイントを使わなければ自動で失効してしまう。


半日のタイムラグはすべてのポイントを失うのに十分すぎる時間だった。

ポイントの億万長者がわずか1日にして無一文へと転落した。


「喉に詰まったのはあなたの食事のとり方も原因ですが、

 肥満で喉がせまくなっているのも原因です。いいですか、これからはもっと……」


「ポイントが……あぁぁ……俺のポイントが……」


「聞いてます?」


「ポイント……ポイント……」


「聞きなさいっ!」


医者に頬をひっぱたかれて我にかえった。


「さっきからポイントポイントって、なんで命が助かったことをまず喜ばないんですか」


「あなたにはわからないんですよ、1億ポイントも失った人の気持ちなんか!」


「わかるわけなでいでしょう。ポイントを貯めるためにバカ食いして。

 その結果に体をこわしてなんになるんです。

 なんのためにあなたはポイント貯めてるんですか!」


「そ、それは……」


言葉がでなかった。


"欲しい物"を買うためにポイントを貯めていたはずなのに、

その欲しい物すらポイント倍率ばかり気にして選んでいた。


いったい自分は何を求めてポイントを必死に貯めていたのか。


「ポイントに支配されていたんですよ。

 貯めることばかりに必死になって、人間らしさを失っていたんです」


「先生……!」


「いいですか。ポイントがどうとかいう考え方は捨てなさい。

 これからは自分の意思で、自分の欲しいもの、したいことを選びましょう」


「そうですね……反省しました。もうポイントなんかに負けません!」


「その意気です。さて、と。では治療もしておきましょう」


「治療? 食事をつまらせただけですよね。治療だなんておおげさな」


「おおげさ? あなたは何もわかっちゃいない。

 肥満は大病のもと。しっかりすみずみまで検査しないと取り返しのつかないことになりますよ!!」


医者は急に険しい顔で詰め寄った。


「それに薬も必要です。あなたにはたくさんの薬を処方します。

 もしかしたら、いろんな病気の原因をかかえているかもしれませんからね」


「ちょ、ちょっと……先生……?」


「さあ早く集中診察室で病気を調べましょう!!」


「だ、大丈夫ですって……」


「なにが大丈夫なんですか! これはひどい!!

 もしかしたら、過剰な食事で脳になんらかの悪影響が出ているかもしれない!

 いやいや、精神病の可能性もある! 診察アンド手術!! さあ早く!! 今すぐに!!!」


病室にストレッチャーが運ばれて体を固定される。

あきらかにいらない大量の手術器材が持ち込まれ大げさな手術が進められていく。


「こんなにしなくても大丈夫ですよ!? なんで手術するんですか!?」


なおも拒否る患者に医者はブチ切れた。




「早くしないと手術ポイントが失効してしまうんですよ!!!」

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