第3話

「マンモスダンス!マンモスダンス!マンモスダンスイエイイエイイエイ!」

路上の真ん中で、突然、上半身裸、下半身にはピッチリした黒いタイツを着用した中年男性が、そのように叫びながら、仁王立ちし、目を見開き、股間を激しく弄る動作を繰り返していた。体中から汗を噴出させていた。


私はコンビニでいくつかの缶ビールとイカ焼きを購入し、帰宅する途中であった。


「マンモスダンス!マンモスダンス!マンモスダンスイエイイエイ!」

目が合うと叫び、また股間を弄る動作を開始。非常にキレの良い動きである。


男性は痩せているが、下腹にのみ、贅肉がかなり付いていた。頭髪は、前の方が欠如している。


私は、男性の正面、3メートルほどの距離に、白いビニール袋を持って、立っていた。


「マンモスダンス!マンモスダンス!マンモスダンスイエイイエイイエイ!」

それしか言葉を知らぬかのごとく、男性は繰り返した。


私は、彼のことを理解したいと願った。だが、マンモスダンスについて、生憎、流行に疎い私は全く知らないのだ。このことを、彼に謝罪したいと思う。こんなにも熱心に、汗を流しながら、私一人に見せるために、彼はマンモスダンスを踊ったのだ。


なんてひたむきな人なんだろうか。

年齢の割にピュアな心を持っているのだと思われた。


しばらくして、彼の背後から、赤いスポーツカーが、猛スピードで来ていた。


止まる気配はない。


人の命など、別にどうでもいい、そういう価値観の人はかなり多いから、不自然ではない。


私は、特段、車に轢かれることを好まないから、路上の真ん中から端へと移動した。


彼にも、車が来ているということは、私が移動したことや、エンジンの爆発的な音からわかるはずだった。


だが、彼は、マンモスダンスを続けた。元気いっぱいに、マンモスダンスイエイイエイイエイ、と叫び続けた。


自身の命より、マンモスダンスが大事。それが彼の考えなのだ。


私は、幼い頃から著しく良心が発達している。

だから、彼の一生懸命な思いを無駄にはできない、容易に切り捨てられない、という思いが溢れた。


結果、彼に対して危険が迫っていると表明することが出来なかった。


私は思いやりの気持ちで、彼には、思う存分に、マンモスダンスをしてもらいたいと願ったのである。


奇跡は起こらない。これがこうなったらこうなる、という通りにしか、世の中はだいたい進まない。


赤いスポーツカーに背後から撥ねられた彼はそのまま前に倒れた。


スポーツカーは去っていく。


乗っているのは近所の宮殿のような豪邸に住んでいる有名なセレブリティ、カツオ&ユキコで、幸せな感じ、笑顔に満ち溢れていた。


多分、彼らは今日セックスする。


それは否定できない。


彼らには、幸せになる権利がある。


私は、マンモスダンスの人がどうなったのかを直視した。

手脚はあり得ない方向に捻じ曲がり、頭は潰されて脳みそが散乱していた。

血溜まりができていて、彼の内臓や肉片があたりに転がっていた。

2つの眼球が、黒いコンクリート道路に、無造作に転がっていたのが、印象的であった。


「マンモスダンス、マンモスダンス、マンモスダンスイエイイエイイエイ」私は呟いた。


どうしようもない。彼は明らかに死んでいて、マンモスダンスを踊ることは永遠に不可能となったのだ。


私はその場を去った。


特に、どこかに通報することはなかった。


赤いスポーツカーのカツオ&ユキコが、幸せになる、そのことの邪魔をしたくなかったからだ。


彼らには存分にセックスしてもらい、この国における少子化問題解決に、取り組んで欲しかった。


赤いスポーツカーに乗る彼らはそれなりに金を持っているだろうから、それなりにお洒落かつセレブリティに溢れた場所に行くだろう。


ゴムは付けるだろうか?できれば付けないで欲しい。生で入れて、マンコに中出しして欲しい。


赤ん坊が元気に産まれたらいい。


素晴らしい生命の爆誕。


明るい未来の成立。


それが切なる願い。


出来れば、セレブな若い男女のセックスならば動画撮影して、私に譲渡して欲しい。だから、通報はしないのである。


それはちっとも残酷なことではない。私はそう判断した。この考え方は極めて愛国者って感じがするし、私らしい優しさにも満ちていて、しばらく気に入っていた。


まずは丁寧なケツ舐めからスタートする。今回は49歳の井上カルロスくんが対象だ。井上くんは小学校で教頭先生をしているという。スーツ姿、七三分けの髪、黒縁眼鏡の真面目そうな井上くんは、こういう経験は初めてで、凄くドキドキしているとのこと。恥ずかしそうに顔を赤らめて全裸になる井上くん。メタボリックシンドローム気味の体型である。吉岡イグレシアス守男は、四つん這いになっている井上くんのムッチリと肉の付いたケツを舐め始める。まず、いきなり穴を舐めない。ケツの二つの山、その表面をねっとり舌で舐めたり、吸ったりする。井上くんはケツの山、その表面にも、薄くではあるが毛が生えている。セクシーだよ、と吉岡イグレシアス守男は言う。同時に、吉岡イグレシアス守男は、井上くんの赤黒い勃起したチンポコに触れる。吉岡イグレシアス守男の手には十分な量、ローションが塗られている。だから、気持ち良くなった井上くんは我慢できずに、あんっ!ああ!きもち!と甲高い声を発するのである。吉岡イグレシアス守男は、井上くんの赤黒い勃起チンポコを、緩急を付けながら扱く。扱きながら、ついに、井上くんの毛深いケツ穴を舐める。舌を穴のなかに入れる。吸う。豊かな雄の芳香を吉岡イグレシアス守男は味わう。思わず、吉岡イグレシアス守男は自身のチンポコを勃起させてしまう。だが、我慢である。これは仕事なのだ。欲望は抑えねばならない。欲望は仕事の後に、お気に入りの男の子を呼び出して存分に発散すれば良いのだ。しばらく、吉岡イグレシアス守男は井上くんのケツ穴を舐め、指で穴をほぐした。あん!あっ!ああ!きもちい!らめらめ!あんあん!らめらめ!あんあん!らめ!らめら!らめえええ!等々、井上くんは白目を剥き、涎をだらだらと垂らしながら叫んでいた。真面目な教頭先生の面影は皆無である。バナナくれ!吉岡イグレシアス守男が、ベストなタイミングで叫ぶと側で様子を見ていた吉岡イグレシアス園子が、はいこれ!と叫んでバナナを渡す。皮の剥いてあるバナナ、まだ熟していない、だいぶ硬さのあるバナナである。おら!食え!食えや!吉岡イグレシアス守男は乱暴な口調で叫びながら井上くんのケツ穴にバナナをずぷずぷと挿入していく。ああ!大きい!大きいよお!白目を剥いて甲高い叫び声を発する井上くん。毛深いケツ穴はヒクヒクしながら、ゆっくりではあるが、確実にバナナ全てを飲み込みつつあった。


LINEで知らない人から画像が送られてくる。


たまに、2週間に一度くらいの頻度だろうか。


【イグレシアスが世界を救う】という名前のアカウントで、知らない頭髪の欠如した太り気味の中年男性が笑顔でアイスクリームを舐めている画像を、アイコンにしていた。


送られてくる画像は、決まって成人男性の全裸で、ケツをこちらに向けており、そして、そのケツには果実の一種であるバナナが挿入されていた。


様々な角度から撮影された画像が、2週間に一度くらいの頻度で、送られてくるのだ。


私は、特段、成人男性の肛門にバナナが挿入されているというシチュエーションに何か感じる、ということはない。


だが、様々な角度から、かなり丁寧に撮影されたであろうこの画像制作に対する手間を労うために、一言だけ『ご苦労様』と送る。


いつも、それだけ送り、画像は気色悪いので削除している。


だが、成人男性の毛深いケツにずぷずぷとバナナが挿入されているシーンを、単に気色悪いと切り捨てるのは、多様性の求められる現代においては、ふさわしい振る舞いではないのかも知れない。

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マンモスダンス (連載中) モグラ研二 @murokimegumii

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