たとえば、明日の道が変わる世界での話
牛寺光
明日の通学路
今日の通学路は複雑なうえ犬がいた。大きいブルドック。道行く人を人の都合に構うことなく吠える無差別なやつ。そいつに吠えられてビビったせいで盛大にこけてしまった。
昨日までいなかったこの犬はもともとここにいた犬。
8時、今日はそれなりに早くつけた。
慣れない自転車登校をしてきた人、降りる駅を間違えてバタバタとしている先生。この時間はいろいろな人がいる。
教室に着くと相変わらず誰にも挨拶をされずに席に着く。
「今日は向こうに駅があったよ」
クラスの中心人物が大きな声で仲間内の会話をしているのが聞こえる。話す相手のいない俺はとりあえず机にもたれかかり寝たふりをする。実際昨日も遅くまで予習をしていたせいで寝不足だった。
「えーこの式を展開し、7を中に入れもう一度因数分解します。そうすると竹原さんどうなりますか?」
さされた生徒はまさか自分がさされると思ってなかったのか少し戸惑ってから「はい、(5x+4)(x+3)です」と答えていた。
しばらくして先生が長々とした説明をし始めた所で電車の通る音がする。今日の線路の場所は廊下側だから電車を見ることはできないけど眠気覚ましにはなった。
昨日みたく授業中に通った電車の色から食べ物を連想するという意外と難しくて、つまらないゲームをできないことを残念に思うけどしょうがない。
休み時間になったけれど特に話す相手がいるわけでもないので朝と同じで一眠りすることにする。
「ねえ、そろそろ起きないと授業に遅れちゃうよ」
隣の席の女の人に起こされて次の時間が移動教室であることに気が付いた。
「理科室だっけ?」
「だよ。何気に初めて話したね。」
「あーそうだっけ?この間消しゴム拾ってくれた時に話さなかったけ?」
「ん?…話したかも。ごめん」
理科室は教室と反対側の向きに窓があるから線路が見える。なんなら駅も見える。この先生はあてる生徒に規則性があるからのんびり窓を見ていても問題がない。だからこんな中途半端な時間に駅にいる人をみて暇をつぶしていた。私服の大学生らしき人や今帰ってきたばかりという姿のスーツ姿のやつれたおじさん。いろんな人がいる。そして自分が家に帰ったり目的の場所に移動する道を楽しんでる。
授業も半分が終わりお昼も一人で黙々と食べあと少しで帰れる。ご飯を食べた後の授業ってなんでこんなにも眠いのかが分からない。
半分寝ている頭で考え事をする余裕もなく終えた授業の後、特にすることもなく家に帰る。
「じゃあ私今日こっちだから。じゃあね~」
今朝の中心人物と話していたお隣さんはこっちに走ってくる。
「君も今日家がこっちの方だったの?せっかくなら一緒に帰ろうよ。」
テンションが高い。かく言う俺も学校の帰り道ほどテンションが高いときもない。
「いいよ。せっかく今日一緒の方向なんだし」
どうせ明日は家の方向が違うからっていう確信もあったから全ての悩みを話せた。
なぜならここは一日ごとに道の変わる世界なのだから。
「…おはよう」
昨日までとは違って今日の教室は一人、僕が挨拶したい人がいる。
たとえば、明日の道が変わる世界での話 牛寺光 @511150380031011075
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます