その一言をちょうだい
高瀬ひかり
第1話
私は誰かにつくられている。あの子もそう。あの子はきっと私にもつくられている。
でももう、明日で中学も卒業なんだよな。あーあ、私の苦手な1人一言タイム。
「・・・・・・体育祭も優勝できてすごい嬉しかったです。明日でみんなと会えないのが少し寂しいけど、みんなと過ごした思い出はずっと忘れません。ありがとうございました」
あるあるの事しか言ってないのにあの子が言うとよく聞こえるんだよね。絶対声だよ。私もあんな声だったら良かったのに。低くて、落ち着きのある声。
私は自分の声に愛着も持てない欲で構成されているのだろうか。
「ねえ」
落ち着きのある音が私を呼ぶ。これも私をつくっているものの一部なのかしら。
「おーい!ちょっと来てー!」
「あ、ごめん」
あの子は呼ばれて行ってしまった。
なんて言おうとしてたんだろう。いい声だね、とか、声よく通るね、とか、そんな一言わざわざ言おうなんて、思ってるわけないか。こんなことはよくあることよね。
自分らしく生きたい。人の真似してる自分なんて、オリジナリティのない自分なんて、羨ましくて自分を恨んじゃっている自分なんて。
でもそんな気持ちは、人に優しくすることで少し緩和される気がする。なんでか分からないけどね。あの子がだれにでも優しいからかな?人の言動が私に強い影響を与えるのは変わらないのに。でも、もうこれでいいのかもしれないよね。
自分らしく生きる。それって1番難しいことじゃないかな。他人の評価を気にせずに自分の気持ちに正直に生きるってことでしょう?だってそりゃ気にしちゃうじゃん。疲れるだけって分かってても認めてほしいんだよ。1回1回一喜一憂して。
時が経つ。まあ、春休み1回分なんだけど。
周りは昨日入学式で初めて会った子ばかり。声は印象を決める。今日、この自己紹介で決まることは多いだろう。
「・・・・・・得意教科は一応、数学かなーって感じで、国語が苦手です。あと趣味は、音楽を聞くことです。みなさん、よろしくお願いします」
「ねえ」
今あの子が呼んだ?いるはず無いのに?
「ユウちゃん!声、綺麗だね。3年間よろしく」
その一言をちょうだい 高瀬ひかり @47810
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