第33話 事情


…彼女は、ぽつりぽつりと

静かに語り出してくれた。


「実は…家出、してるんです」


「家出」


選択肢のうちの一つやった…


…なんとなくそんな気はしてたけど。


「お義父さんが、少し嫌になって…

 でも一度目じゃないんです」


「なんで嫌んなったのん?」


喧嘩、とかじゃないんかな。


父親はおらんかったから、

その感覚はあんまりわからんくて。


「私…養子なんです。

 お義父さんは大企業の一番上で

 跡継ぎが必要だったらしいんですが

 …その、若い頃に一人交際していた

 女性に子どもがいることがわかって

 お義父さんはその人に…

 すごく執着してるみたいで」


「…うん」


思いがけない大きな話やった…


「家族として愛されていないわけでは

 ない…と思うんですけど、

 私のまえでだって

 私のお兄さんのことを

 いっぱい話して…嫌になって」


なる…ほど。それで家出、も

あかんやろうけど…


そのお父さんだってそら良くないな…


ずっと、そんなん言われとったら

しんどいやろうなぁ。


「なるほど、なぁ…

 そら、しんどかったな」


「…はい」


「けどね、なんのあてもなく

 家出るなんてしたあかんよ」


昔は俺もよう逃げるために

美幸連れてそこら

逃げまわっとったしね。


「えっ?」


意外やったんやろか?


家出したらあかん!って

それだけ言われるって思うたんかな。


「自慢やないけど、ちっさい時

 俺も…家出はようしとってん。


 ただ、無計画やとすぐ俺なんか

 野垂れ死ぬから。


 だからいつも、どこに行くのか、

 いつ帰るのか…くらいは

 考えとったんよ」


「……なる、ほど」


下手したら、あの人やから…

殺されるかって思うたけど。


大体は上手くいって、

穏便に許してもらえた…


いや、めんどくさくなって

見逃してもらえた、が正しいか。


よしんば失敗しても、

美幸は庇えたからどっちにしろ

よかったんかもね。


「とはいえ、見習ったらあかんよ?

 お父さんにも悪い所はある。

 人間やからね。


 結構不器用な人みたいやけど、

 愛されてるんやろ?


 羨ましいやんか…


 わかったってよ、なんて言わへん。


 そもそも他人やし、

 人のこと言われへんからね。


 まずはお互いに歩み寄るんを

 頑張ってみたらええんちゃう?」


(※わかったって=わかってあげて)


「そう、…ですね」


ふふ、不満そうやなぁ。


「納得いかんかもしれん。


 けどまぁ、頭の片隅くらいには

 置いといて欲しいんよ。

 幼少期失敗したようなもんの

 俺からのアドバイス」



葛藤してるんやろか?


とりあえず疲れてるやろうし、


「ま、ぼちぼちな。

 ちょっとまた買い物行ってくるから

 お風呂でも入っといて〜」


「えっ、え?

 あ…ありがとうございます」


彼女の身長は、俺より少し

小さいくらいやろか?






近くの服屋さんで簡単な

新しいレディース服一式を買うて来て

美幸に風呂場の前に

置いといてもらった。


ハルくんは今…


あ、丁度一時間くらい前に

配信終わった所やな。


メッセージ送っても大丈夫やろか?


とりあえず、相談したい旨と

大体の内容を送った。


するとすぐに「は?」


って驚かれたけど、

まあ当たり前やって思う。


女の子拾ったとか、

信じられんやんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る