第32話 邂逅



今日は、特に強い雨の日ぃやった。


さっき本社帰りでタクシーに乗って

少し買いたいものがあって今

家の近くの店で下ろしてもろうた。


そんで気づいたんやけどね、

一人、女の子が店前で傘もたんで

雨宿りしとってん。


その日は昼前からずっと

雨降っとったんやけどなぁ…


なんて思いながら、店に入る。


傘はこの店にだって安ぅ売っとるし、

誰か待っとるんかなぁ…とか、

財布忘れたとかなんかなぁ…って、

ちょっとした邪推。


動画で使う用のi●unesカードとか、

家できれてるもの買うて

また外に出たら、

さっきの女の子はまだ居ってんよ。


ちらっと見て、

ほんまにどうしたんやろ…


ってちょっと心配になったそん時。


「あ、あのっ!」


急に話しかけられてん。


「えっと…そのっ、

 泊めてくれませんか?!」


思考がフリーズした。


「…え?とめて…って、

 一晩…的な意味で?」


「そ、そうです。その泊めてです」


「え、え〜……っと」


知り合いやろうか…?って思うて、

考えて、思い出そうってしたんやけど

全然わからへんかった。


多分、初めて会うた人やと思う。


「親御…さん、は?」


「……………………ちょ…ちょっと、

 事情があって」


「………」


ど、どうしよか…


「おっ、お願いします!今日だけ…

 今日だけですから…っ!」


うっ。そんな目で見られたら…


うぅ…でも…(ちらっ)うっ。


くっ、

「じょ、条件があります」


かわいそうな顔すぎて

見とられんかった。


「っ…な、なんですか…?」


「事情をきっちり、説明すること。

 二度と、こんなことしないこと」


特に、こんな危ないこと。


人の家泊まろうするなんて、

度胸はすごいけどほんまに危ない。


俺がもし変態やったら

この子どうするんやろ。


「うっ、は…はい」


………はぁ。なんていうか、

嵐が舞い降りてきたみたいやなぁ。


ほんま、捕まってまうかもしれん。


…どうしよっ、か…












タクシーに乗って、家に帰る。


一人増えた女の子について、

運転手さんは何も言わんでくれた。


その本人はちら、ちらと

こっち伺うみたいに

数回視線向けて来とったけど、

正直今は頭痛うて

反応する余裕はあらへんかった。





「ただいま、美幸…」


「おかえりにぃに!…と、誰?

 今日お客さんの予定なかったよね」


「あー…俺もよく

 わかっとらんねんよ」


「???」


リビングに案内し、袋からさっき

買うたもん取り出していく。


「……お、お邪魔します」


お、やっと喋った。


妹おるって思うてなかったんやろか。


「…まぁ、一回そこ座ってええから

 お茶でも飲んで休憩しぃな。

 今日朝から雨降っとったし、

 ずっとあそこ立ってたんちゃう?」


タクシーの席座った時

足ちょっと震えとったしなぁ。


相当疲れとったんとちゃうかな。


「そ、そうなんです」


「ちょっと待っといてぇな」


コップにお茶注いで持っていく。


「お茶請けはないけど」


「いえ、…ありがとうございます」


「とって食うたりはせんから

 肩から力抜き」


どうにも緊張したある。


「は、はい…」


言葉もさっきから

つまりまくっとるしな。


けどまぁ…

「…んまぁ、急に他人の家来て

 リラックスしろ言うんは

 そら無理やろうけどね」


この子が落ち着いてくれるまで…

ゆっくり何も言わんで待ったろやん。

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