第24話 鍋パ(しゃぶしゃぶ)/2





そろそろ、時間やろか。

ハルくんは1時間程前に帰ってきとる。


基本ハルくんは本社で配信してるから

用事じゃなくても出勤しとる。

 

今日は皆と、いーっぱい楽しんで欲しい。


いつもお世話になっとるもん、 

それくらい思ても良えやんな。


ちなみに、鍋パのことは既に伝えたある。


さてさて、

5人分のお箸に箸置き取り皿にコップ。


お肉もパックのままやと味気ないなぁ...


せや、おしゃれにお皿に盛ってみよ。


確か、黒い平皿あったやんな…?

お、あったあった。円形に並べ、重ねていく。


お野菜もそれっぽい丼に盛る。


ガスコンロを机の真ん中に置く。


その上にお出汁の入った鍋を

えっちらおっちら置く。


これ位余裕で置けるようになりたいわ…(涙)


かちっ、ぼぼぼぼぼ…


特徴的な音を立てて炎が灯る。


火って昔っからなんか好きやねんなぁ…

ゆらゆらって儚げやのに存在感のある姿。


いつも炎を見かけた時は、見惚れてまう。


もちろん、嫌な思い出もある。


母さん絡みの事やから、

思い出したくはないけど…


それでも、思い出してしまって体が強張る。


かさかさと、

普通のとは違う爛れた肌を撫でる…

ううん、気ぃ取り直して用意せな!

今日は皆を楽しませにゃぁな。


灰汁取り用のお玉とお椀を側に置いて、

その隣には豆腐取り用の網も置いておく。


ねぎ、紅葉おろし、柚子胡椒。

ごまダレ、ぽん酢。


よし、用意完了!みんな呼ぼか。


NINEでハルくん達に連絡する。


3人ともから

「今行く」という内容の返信が来た。


「おーい美幸〜、しゃぶしゃぶするけど、

 宿題終わった〜?」


「もう終わらせたあるで兄ちゃん〜!

 やろやろー」


「よっしゃ、偉い子やなぁ。

 よし、行こか!今日は楽しんでな〜?」


「うん!」



ぴんぽーん…


「はーい」がちゃり。


遥「おー蓮!今日もよろしくな〜!」


「ハルくん〜!どうぞ上がって。

 楽しんでって〜」


大「こんにちは蓮君」


「大智さんも喜美恵さんも上がって下さい〜!

 あっ、お酒持ちますよ」


大「いや、重たいし、大丈夫だよ。

 今日は招いてくれてありがとう」


喜「こんにちは蓮君。

 気にしなくて良いのよ〜」


「そうですか。

 えと、スリッパありますんで」


大「気が利くなぁ」


「や、普通ですよ〜」


席へ招いて、座ってもらう。


座布団もちゃんと人数分用意したあるんやで?


ちなみにこの家買うた時からずーっと

この床の座布団に座るスタイルやねん。


テーブルはあるんやけど、

椅子もあんましないし小さめのんやから

家計簿つける時とか読書の時とか、

文字書く時とかしかやらへん。


習字もやってたんよ。


最近やめてもたんやけどね。二段止まりやね。


忙しなるかなぁ、て思うたからなんやけど...

続けたかったね。先生優しかったし。


あかんあかん、思考が端にずれとる。

お皿に盛った具材達を皆の前に置いていく。


遥「おお〜、美味そう」


大「いつもながらだけど、手際良いねー」


喜「蓮君、私たちも手伝うわよ?」


「いえいえ、もう殆ど終わっとるんで

 後は運ぶだけなんです」


美「私はさっき手伝ったで〜!」


大「美幸ちゃんも偉いなぁ」


美「やろ〜?」


遥「だな!ははは」


「よっと」


コトンと机に最後のお皿を置き終わり、

自分も席に座る。


「じゃあ…

 「「「「頂きまーす!」」」」」


「どうぞお好きに、好きな具を

 しゃぶしゃぶしてください」


大「じゃあ、遠慮なく行っちゃおうか」


喜「私も行こうかしら」


遥「んーじゃ、俺野菜入れるよ」


「お米も炊いてるんで、言うてくれたら

 よそいますよ」


美「美幸ご飯食べる〜」


「おっけーやで、ちょっと待っててな〜」


炊飯器の蓋を開け、ちょうど良くよそう。


鍋のくつくつと煮える音が心地良え。


美「ありがと、兄ちゃん」


「うん、食べ食べ〜」


大「ちょっと早いけど、早速飲んじゃっても

 良いかな?」


「全然構いませんよ〜。

 好きに楽しんでもらえたら幸いです」


大「よーし、本当に遠慮なく呑んじゃうぞ」


喜「もう、あなたったら」


「「「あはは」」」


久しぶりに楽しい一時やった、ほんまに。


大智さんは泣き上戸で、本音を曝け出す。それで、

俺のことを心配してくれてたんやなってわかって、

心もあったかくなった。


喜美恵さんも楽しんでくれた。


ハルくんも楽しんでくれた。


美幸も楽しそうやった。


この夜は、

渡辺家を笑いが包み込んで離さへんかった。









《遥希side》


あー、最高に楽しい。


仕事…って言っても打ち合わせくらいだが、

帰って来てからはそこかしこに

蓮の気遣いが垣間見えて

ちょっと泣きそうだった。


俺が女だったら惚れてたわ。


蓮が女だったら俺が娶ったわ。


お誘いがあって今、蓮宅でしゃぶしゃぶ中。


皆でわいわいして食べる食卓は最高だ。


まあでも、お父さんは泣くし

お母さんは褒めまくるし

美幸ちゃんは可愛いし蓮は優しいし…って、


後ろ二つは愚痴になってねーや。


ちょびっと恥ずかしい所はあったけど、

ポロリと蓮の口から溢れ出た俺に対しての

今日の本音を聞いて、俺は嬉し泣きした。


誤魔化すために生煮えの長葱を噛みながら。


お肉も野菜も〆のおじやも最高に美味しい。


ちょっと話しして、

俺は久々に蓮宅に泊まる事に。


お父さんを自宅の布団まで支えて、

ノートパソコンとデータを持って再び蓮宅へ。


編集作業について意見を出し合う。


コラボの内容も話し合った。


そして、蓮が片付けするのを手伝い

…明日は土曜日だからネ!


美幸ちゃんと蓮と俺で遊ぶ。


散々遊んで、美幸ちゃんが眠そうになって来たので

リビングに布団を敷いて、3人で寝る。


パジャマ姿の渡辺兄弟、可愛い。


それは置いといて、電気を消す。


充実感に包まれながら、眠りについた。






翌朝。

いつも通り朝早くに起きて、

3人分の朝食を作っている蓮を見た俺は

将来こんな嫁さんが欲しいなー。


…なんて呑気に馬鹿なことを考えていたのだった。

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