第2話 りょうしんといもうととあのひと

 俺には、妹がいた。


「お兄ちゃん、一緒に遊ぼ!」

「お兄ちゃん、大好き!」


 まだ6歳だった俺の妹は、ある日突然、何者かに連れ去られた。

 公園で遊んでいるときだった。

 目の前に知らない男がいて、妹の手を引き車に乗せて行った。

 俺は、ずっとその妹とその男を探している。

 なぜ連れ去られたのか、今妹はどこで何をしているのか。

 そもそも妹は、まだ生きているのか。


 両親は、その事件よりも前に亡くなっていた。

 家で、僕と僕の妹が寝ているときに。

 朝起きたときには、両親は冷たくなっていた。

 

「朝だよ、起きて!おかーさん、おとーさん!」


 そう言って体をゆすっても、起きてくれなかった。

 その日俺は、血なまぐさい家で妹と二人でうずくまっていた。

 そんな俺を助けてくれたのが妹だった。

 妹がいたから、俺はもう一度前を向けたんだ。

 だから、妹のためになら、俺は、何だってする。


 両親が亡くなってからは、とある機関の援助を受けて、二人で暮らしていた。

 名前は知らない。顔も見たことない。

 ただその人とは、文通で接していた。

 その人との契約があった。


「私たちがこれから、あなたたち二人の生活を支援します。その代わり、これから私のために働いてくれませんか?」


「承諾してくれるのならば、この書類の可のところに〇をつけて、この封筒で郵送し返してください。通帳とキャッシュカード、4桁の数字をお送りいたします。承諾なさらないのならば、この紙は無視していただいて結構です」


 俺は、最初は無視していた。

 両親の財布の中のお金でご飯を買って食べていた。

 でも、しばらくすると財布の中身は尽き、水道代、電気代、ガス代などの請求書がきて、知らないところから電話がかかってきて、どうすればいいか分からなくなって、結局その人の手を借りることを選んでしまった。


 それからは生活を安定して続けることができていた。

 妹が誘拐されるまでは、本当に幸せだった。


 妹が誘拐されたことをその人に伝えると、その人は調べてくれると言った。

 分かったことがあれば伝える、と…。


 調べた結果何が分かったのかは知らない。

 聞いても、まだわからない、とだけ返される。

 でも、継続してお金を振り込んでくれるその人のことは信用している。

 その人のおかげで、俺は生活できているんだ。


 だから、俺はこの仕事を続けるしかない。

 それ以外に生きていく術がわからないのだから。

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ヒロイン 海那 白 @umina_shiro

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