第14話 電話

 経緯はどうであれ、応援しているY〇utuberが元気で暮らしているという姿を目にして俺は更新のなくなった宇都宮ソラの動画チャンネルで過去にアップされた動画を見ていた。


 俺は基本的にメイクアップ動画や商品開封動画ばかり見ていた。だが更新が止まってしまった今! 普段は目に入れていなかったコラボ動画も見る決心をした。


 ソラちゃんのコラボ相手というのは、動画がギリギリ収益化できるくらいの規模の配信者で、大学生だ。

 ソラちゃんの彼氏らしい。


 顔は確かに雑誌にいそうだし、実際に読者モデルをしているらしい。俺は基本的に漫画雑誌しか読まないからよく分からないがSNSなんかではかなりの影響力があるらしい。


 美男美女カップルだ。二人が大食いに挑戦したり、買い物している姿はとても楽しそうだ。

 イヤホンから流れる二人の話題は基本的にファンが楽しめるような内容で内輪なものが多い。


 リビングでソファに座って動画を見ながら、テーブルの上で寝っ転がる千代の背をなでると、奴はまるで猫のようにしっぽでバシバシとテーブルを叩いていた。


 時折テレビを見ると千代が落語番組を眺めている。昔からずっと見ていたらしい。


 誰かがテレビを見ている、という体にしないと母か父にテレビを消されてしまう。千代が話せることを知ってからは、千代チョイスのテレビ番組を見なければいけなくなった。


 うちの中では千代の方が序列が高いのだ。


 ぼーっとスマホで動画を眺めていると、千代が俺の足に爪を突き立てた。プツリとジャージに穴をあけられて俺は千代を睨みつける。イヤホンをとって千代に「何すんだジジィ猫」と怒ると、千代は不満げに、


「おい、電話」


 と吐き捨てた。

 確かに家には固定電話から鳴り響く音がずっと響いていた。テレビの音が聞こえにくくなるのだろう、千代はしっぽをテーブルに叩きつけていた。

 俺は廊下に出てすぐさま電話に走り寄った。


「はい碓氷です」


「フユ!」


「なんだ徹か、どうしたんだ?」


 受話器から聞きなれた声が響く。

 それは最近、姉と付き合い始めた幼馴染のものだった。可哀想にストーカーの手の中に落ちた彼は、一生見えない檻の中だろう。


「何かネットニュースで秋音さんの写真が……」


「ああ……」


 焦ったようなその声に俺は少し拍子抜けしてしまった。まとめ記事でもそのジャンルにアンテナを張っていないと情報の入手が遅くなる。


 『宇都宮 ソラ』に興味がない徹は先ほど知ったのだろう。そもそも姉ちゃんの名前なんかは入っていないから本当に知ったのは偶然か。


「とりあえず、父さん母さんとおじさんたちが何とかしてくれてるって」


「そうなのか……?」


「今日は姉ちゃんもソラさんの家に泊るらしいし、とりあえず俺らじゃどうしようもないよ」


 俺が諦めつつそう言うと、電話の向こうで徹は何かを迷っているようだった。幼馴染のよしみで待っていてやると、


「秋音さんのために、俺、何か出来ることないかな……」


 徹は絞り出すように言った。


 そういう事は本人に相談した方が喜ぶと思ったのだが、俺は姉ちゃんに一矢報いてやることにした。

 ついつい上がってしまう口角が上がってしまうが、声はしっかりと真面目に――。


「何か出来るか本人に相談してやった方が姉ちゃんの性格的に喜ぶと思うよ。……それと『秋ちゃん』って呼んでやればいいんじゃないか……?」


「あ、秋ちゃん?」


 笑っちゃいけないと思いつつ、


「姉ちゃんが家でもっと気軽に呼んで欲しいって言ってたぞ」


 あの姉にそんな殊勝な心持ちなど絶対にないが、恋で盲目な徹にそんなのは理解できないだろう。


「そ、そうか! ありがとう! 秋音さ……秋ちゃんに何かできないか聞いてみるよ」


 徹は嬉しそうに声を弾ませて電話を切った。


 どうしてあいつは固定電話にかけてきたんだ? ふと疑問に思ったが、やつの性格を考えるに、親に知らせようと思ったのだろう。

 困った事があればすぐに大人を頼る。やつの良い癖だ。

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化け猫お千代 夏伐 @brs83875an

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