第7話 後悔と幻灯写真
【7-1】
──むかし、むかし。
ひとりの、若い村娘がおりました。村娘はたいそう愛らしく、その上やさしく、また働き者で、村のみんなから可愛がられておりました。
愛を受けて育った村娘は、もっともっと、愛情にあふれた子に育ちました。
村娘が、当時の成人年齢に達した頃でしたでしょうか。一人のお貴族様が、村へ訪れになったことがありました──……。
◇◇◇
『ある墓を、私の代わりに撮ってこい』
「ユウ……大丈夫?」
そう声を掛けられて、幽霊の少女・ユウはハッと我に返った。
自分より少し前を歩いていた青年がこちらを振り返っていた。彼と違って、自分は歩いてなどいないのだけれど。
心配を滲ませた表情をする彼の、お腹の辺りでカメラが揺れた。青年……
「大丈夫……ごめんなさい」
「……お前、この前からちょっとおかしいぞ」
低く呟いたのは、朝香よりさらに前を歩く盲導犬の
口調はぶっきらぼうだが、ユウのことを気に掛けているのは伝わってきた。長い茶髪を揺らして、ユウは笑う。顔の右側で結んだ、一房の三つ編みは、彷徨うように揺れた。
「ずっと考え事が頭から離れないみたい。でも大丈夫よ」
「『みたい』ってお前なぁ……だから休んどけっつってるのに」
「一人でいるともっと不安になるのよ。気にしないで」
明の目がさらに厳しいものになる。「そんな調子でいられても迷惑だ」と言いたげだ。
分かっているのだけれど。
(……早乙女さんの仕事を見てから、ずっと引っ掛かっているのよね)
自分の記憶が無いこと。その状態で、この世に存在していること。
ちゃんと理解していたはずのことが、まるで「問題」であるかのようにユウの前に立ちはだかっている。そんな気が、ずっとしている。いくら悩んだところでユウは何も思い出せないし、どうしようもないのだが。
一度何か違和感を覚えたと言えば、そう、海を訪れた途端に涙が溢れたことくらいで。
「ユウ、アカリ。……僕は構わないよ」
柔らかい声が響く。声の主である朝香は、いつもの通りに、優しく微笑んでいた。
「構わないから……ユウもあまり気にしないでね。早乙女さんは、ユウに何もしなかった。だから気にすることないよ」
その言葉に、胸が詰まる。
霊能者である早乙女。その気になれば、すぐに霊的なものを祓うことが出来る実力の持ち主。しかし彼は、確かにユウに何もしてはこなかった。力を向ける素振りも、「祓う」ことを滲ませる脅しすらも、何も。だから意図があってあの仕事を見せたのだとしても、「消えろ」と言っているわけではないのだと思う。
……ただ……まだ。それだけでは、「ここにいていい」という理由にはならない気もする。
ここにいていいのか? そんな事は聞けないし、誰にも言ってはもらえない。
巡り混ざる思考を全て飲み込んで、ユウはゆっくりと微笑んだ。
「……えぇ、ありがとう」
「うん。まぁ、早乙女さんが考えていることは僕にもよく分からないから」
少しトーンを上げて、前を向く。ユウもその隣に並んだ。
行く道は、車道も歩道も狭い一本道だった。三人は、早乙女から指定されている「墓」に向かっている。墓に向かうにつれ、段々と人も車も少なくなっていった。
この先へ足を踏み入れる人数を限り、厳しく監視しているかのようだった。
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