電話銀行

沢谷 暖日

第1話

 チラシがポストに入っていた。

 どうやら、電話でお金の引き取りなどが出来るらしい。

 私のような70を超えた老人にとっては、とてもありがたいことだ。

 今日、初めてそれを利用してみることにした。


「はい。こちら電話銀行です。ご用件をどうぞ」

「お金を100万ほど引き出したいのですが」

「はい。了解致しました。では、お名前と住所を教えてください」


 電話の向こうの無機質な声に言われるがまま、それを伝える。

 次には、口座の番号やその他諸々を聞き出された。

 少し面倒臭かったが、銀行に行くより断然ましだ。


「お手数をお掛けして、申し訳ございません。以上でございます。明日までには、お金をお届けします」


 その言葉にはいはいと頷いて、受話器を置いた。

 明日までということは、少し時間がかかるらしい。

 外に出ない代わりに、時間を売ったということだろう。

 すぐに金がいるという訳では無いし、気長に待つとしよう。


───────


『『電話銀行』と名乗る詐欺グループが100万円を騙し取り、それに関わったとされる4人の男を逮捕しました』


 その日の夜、なんと無しに付けたテレビから、そんな言葉が耳に飛び込んだ。


 なるほど。

 電話銀行は便利だから、それを利用して詐欺が行われているのだろう。

 怖い世の中である。

 それよりも、詐欺に引っかかる人がいるということが驚きだ。


『詐欺グループのビル内に残された資料を見るに、被害にあったのは70代の女性で認知症を患っていると思われ──』

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電話銀行 沢谷 暖日 @atataka

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