猫の誘惑
鶯埜 餡
第1話 自称《守護霊》、いざ降臨☆
俺は猫が好きだ。
だが、目の前のソレは決して猫ではないと確信でき、る。
「だーかーらー。私は猫じゃないよぉ」
その
「私は『《クロネ》の守護霊』なだけぇ」
そう言う生命体をまじまじと見てしまった。
なんでこんな状況になったかにはちゃんと理由がある。
現在、夕方の五時。
仕事から帰宅して、猫と戯れようなんて思いつつ、いつも通りの道をいつも通りの時間に歩いていた俺だったけど、今日は不審者がいた。
うん。不審者。
いや、だって、真夏の住宅街でふわふわの猫耳(※コスプレでつけるようなちゃっちいヤツじゃなくて、かなり手が込んでいる)に文字通り『完全』な猫の毛のようなふわふわしている上着?羽織?を身に着けている人間はどう見たって、不審者じゃないか。
そいつがいきなりこう言い出したのだ。
『やぁ、藍田コーキ君。私は君の飼っているクロネちゃんの守護霊さっ!』
いきなり道路の目の前にもう、これ通報案件だよね。
ヤツはだけど通報しようとした俺のスマホを無理やり奪って、叫ぶ。
『これ。守護霊にそんな悪いことしちゃだめでしょ、駄・目!』
しかし、なんだか見覚えがあるなぁって思っていたら、そういう事だったのか。
うちの猫ちゃんを―――って、なんでこいつはそれを知っているんだ?
確かにうちで飼っているクロネは彼女と同じ頭に
俺は一人暮らし始めたときから、友人でさえ一切、家の中に上がらせたこともないし、スマホをはじめ自宅用・職場用問わずパソコンなどの電子機器類にも一切、クロネの写真を入れたことはない。
ふと、そこで思いだした。
あいつは最近、俺に構ってもらえなくて元気が無いのだ。
だから、俺に構ってもらいたくて、こんな人間の女の子の姿をして会いに来たのか。
なるほど、なるほど。
「――――って違うぅ!」
自分自身の思考に対して、思わず誰が聞いているのか分からない、住宅街の道で不審者――不審霊? 不審猫?――に対してそう叫んでしまった。すると、目の前の《自称・
「やっぱりコーキは面白いねぇ」
一通り笑った後、笑いすぎたのか涙を拭きつつそう言った《自称・猫の守護霊》。
「っていうことでぇ。これからコーキの家にぃお世話になっりまぁす!」
そう言って自宅玄関口までつかつかと歩いていく彼女。俺にはもう彼女の暴走を止める気力はなかった。
面倒だなと思いつつも、仕方なしに玄関の扉を開ける。
「たっだいまぁ♪」
我が家のごとく普通に入っていく彼女。自宅のはずなのに、なんか他人の家に迷い込んでしまったような気分になってしまった。
家に入って、晩ごはんの準備をしようと台所に立つと、リビングからめちゃくちゃ嬉しそうな声が聞こえてきた。
「ふっふふーん。ふふー、あー可愛いぃ!――――やぁーん、なでなでさせてぇ♪」
のんきに鼻歌交じりにうちのクロネちゃんを可愛がっている彼女。俺はその様子を見ていて追い出そうという邪険にする気がうせた。いや、あの様子はただの建前で、実はこの家の金品を抜きさろうとしている凶悪犯罪集団の一味だという可能性も否定はできないのだが、あの様子じゃあ、それも考えにくいか。
自称・猫の守護霊は守護霊なのだからご飯はいらないかと思ったが、さすがに『自称』しているだけだ。中身は人間、拾っておいてご飯抜き、というのはどうにも気が引ける。とはいえども、さすがにちょっとだけ意地悪してやろう。そう思いながら、いつもご飯を食べてるテーブルに一人分だけの用意をした。すると、猫女は目を輝かせるが、すかさず俺は彼女に向かって言ってやった。
「君は《守護霊》なんだから、食事はいらないよね?」
すると、途端に涙目になる自称・守護霊。
おいおい。その設定してるんだから、食事はいりませんっ!くらいの気概は欲しいな。
「コーキの馬鹿ぁ!」
俺は何も言ってないが、なんだかんだ他人のココロを読みやがる
それからしばらく互いに無言で夕飯を食べる音だけがしていた。
「ごちそうさまでした」
自称・守護霊は守護霊らしくなく、きちんと手を合わせて言う。
「なぁ。お前、今日泊まるところはあるのか?」
俺の問いに下を指差す自称・守護霊。まさかと思ってここに泊まるつもりなのかと尋ねるとそーだよ、と返ってくる。
いや、当たり前のように言うなよ。
「だって、私、守護霊なんだし、クロネちゃんのそばにいなきゃ、彼女死んじゃうよ?」
自称・守護霊は守護霊らしくないが、あくまでも守護霊だと言い張るらしい。
「いや、この家にベッドは一つしかないぞ」
俺がせめてもの抵抗をすると、じゃあ、私がベッドでと言いだした自称・守護霊。
そろそろ殴ってもいいかな?
ちょっとわがままな守護霊にわきあがる殺意。だけども、相手を殴るわけにもいかず、ふりかざした拳を床にうちつける。
「はいはい、わかったよ」
俺は渋々ベッドを譲ることにした。
本当はいろいろ家事をもう少ししたかったけど、なんだか疲れすぎてもう無理だ。俺と自称・守護霊は交代で風呂に入って、すぐに寝た。もちろん彼女がベッドで、俺は床にシュラフをひいて。
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