第2話 自称《守護霊》、おねだりする
翌朝、なんだか寝心地悪ぃなと思って起きあがるとここは異世界――じゃなかった、いつもと寝てる場所が違ってたということを思いだした。
「ったく、なんでこんなことになったんだか」
思えば昨日の自宅前からが運のツキ、というような感じ。だけどもこの感じが嫌なのかどうかと聞かれればそんなことはない。
「おはよー」
どうでもいいことを考えてると、頭上から声が聞こえた。
「ああ、おはよ」
すでに昨日の装備がセットされてる。見た目は社会不適合者のような感じなのに意外と起きるのは早ぇな。
まあ、起きるのが早い社会不適合者もいるのかもしれんが。本当は今日一日くらい現実逃避したかったが、会社もあるからと渋々立ちあがり、
いつも通り手早く食べて、出かける準備をする。昼食は同じくいつも通りコンビニで買うから、用意はしない。
「コーキ、今日も会社なの?」
いや、別にいいんだけど、だったらなんで尋ねる必要があるんだ?
すでに行動パターンは把握してたんだから、それだってわざわざ聞く必要はないだろうよ。このやりとりするだけでなんだか朝から疲れてしまったな。
「そういうお前こそ、どうするんだ? 学生なんだから、授業もあるんだよね?」
問いかけにぴくりと動きを止める《守護霊》。
「コーキ、それ本当にまじめに言ってるの?」
今までとは違っておちゃらけた様子がない《守護霊》。どういうことか聞き返すと、盛大にため息をつかれた。
「私、こう見えてさ、二十八歳だよ?」
「え」
彼女の年齢に嘘だろと言ってしまった。少なくともフード部分を含めても身長はかなり低いし、顔も十分幼くみえる。そしてなにより、普通の社会人ならばこんな不法侵入なんていう非常識なことをしないはずだ。
それに――
「俺と同い年?」
同い年だということに驚いた。ということは社会人のはずだから、どちらにせよ、出かけるのだろうと思って尋ねる。
「でも、会社とかは? 働いてるんだろ?」
その問いかけに黙りこむ《守護霊》。《守護霊》という設定を崩さないために答えを出し渋ってるのかと思ったら、そうではなかった。
「私さ、引きこもりなんだよ」
その答えにはぁ? と思わず言ってしまった。
「いや、私も本当は就職したかったんだよ? でも、面接や履歴書書くのが本当に嫌で。おとーさんが、うちの会社継げばって言ってくれてるんだけど、どうもしたいことじゃないんだよねぇ」
どうやら彼女は立派な社会不適合者だった。もちろん、だからといって、就職しないことについては彼女を責める資格はない。
「で、そんなときあったのが、ネットサーフィン。ここなら私が私でいられる。自分で自分の環境を作ってるってわかってるけど、どーしてもそのほうが安心するんだ」
だから、ここにコーキが出かけてる間、ここにいさせてちょーだい。
すでに《守護霊》という設定が抜けている《
しゃーねぇな。
初めて会ったときから、どうにもコイツに絆されっぱなしだった。
「わかったよ。なにか必要なものはあるか?」
その問いかけにパソコン、とねだる《守護霊》。昼食以上にパソコンかよ。やれやれと思いつつも、わかったよと言って自室に置いてあった少し古いタイプのノートパソコンを渡す。パソコンを得たクロネは嬉しそうに頬ずりをする。
見知らぬ他人だけにその姿には引いたが、喜んでくれるのならばそれでいいやと思ってしまった。じゃ、行ってくると言って出かけた。
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