第4話 自称《守護霊》、ごめんなさいをする
俺の返答を聞いてやったぁ、それでこそコーキだよねっと喜ぶクロネ、いや、黒根さん。この家に来てからはじめて、フードを取った黒根さんの顔をまじまじと見てしまった。
本当にあのときと変わっていないなぁ。癖のある髪は綺麗に短く切りそろえられていた。彼女は……――確か記憶が間違っていなければ、どこかの社長令嬢だったんじゃなかったけ。それで……――
「コーキとは小学校で六年間一緒だったし、中学校も三年間、同じクラスだったのに、コーキったら高徳学園にいっちゃってさ」
ああ、そうだ。目の前の
「それはお前があのお嬢様学校に入ったからだろ?」
彼女は実家の財力をフル活用して名門女子高校に入ったのだ。俺の指摘に唸る黒根さん。自分の非を認めたくないようだ。
ま、それでもいいかな。
彼女は、というか彼女と一緒にいたときはかなり振りまわされたと同時に、かなり運が良かった。たとえば学級委員にも一切、指名されなかったり、、地元の商店街では特賞のパソコンを当てたり。その分、彼女と離れてからは一生分の災厄が降りかかってきたくらいだから、黒根さんが
それはそうと聞くべきことは聞いておかねばならないことに気づいた。
「なぁ、なんでわざわざ《守護霊》なんか自称したんだ? というか、そもそもどうやって俺の居場所やクロネの情報を知ったんだ?」
俺の質問にくぅんと鳴いて、なにかを訴えるような目で見る黒根さん。どうやら触れられたくないようだ。だが、さすがに引くわけにはいかない。しばらく睨みあいが続いたあと、仕方ないなぁというようにため息をつき、理由を語りだした。
「まず、調べたのは簡単。こないだ街中のネットカフェでこもってから、満喫に行こうとしたら、コーキを見つけたんだ。で、追いかけてここまで付いてきたら、クロネちゃんを飼っているのを知ったんだ。私と同じ『クロネ』だったから、これはなにかの縁だと思って、ね」
彼女の告白に呆然としてしまったけど、自分自身でも納得した。
「思えばそうだな。俺がこの猫に『クロネ』って付けたのはお前のせいだな。お前と離れてからも自然にお前のことを思い出していたんだろうな」
その言葉にえっと驚く黒根さん。
「だからそうだな。ここに好きなだけいていいぞ」
俺はお前を歓迎するさ。宣言に泣きはじめるたクロネさんにどうしたもんだと焦っていたが、いきなり席を立ち、俺に抱きついてきた。
「ありがとう」
「ううん。こちらこそお前のこと思いださせてくれてありがとう」
それから二人、過去のことを話した。
「うわぁ、それめっちゃ大変そうだったね」
「ああ、本当だよ。でも、お前も大変だったな」
全て話し終わると遠い目をして、唸る黒根さんと俺。
それから二人と一匹で共同生活を始めた。そして数ヶ月後、籍を入れる直前の夕方、俺は彼女と一緒に歩いていた。
「お父さん、喜んでくれたね」
「ああ。でも、さすがにもうそろそろ、その着ぐるみやめないか」
最初に出会ったときと同じ、ブリティッシュブルー色の猫ぐるみを着ている彼女に遠い目をしていた彼女の父親。でも、俺のことを覚えてくれていたのか、すんなりと結婚するのを許可してくれた。
「やだねっ。だって、コーキとの繋がりなんだから」
はじけるように彼女は笑う。ま、いっか。彼女が笑ってくれるなら。
家に帰ると、すぐさまクロネが飛んでくる。それを軽々と黒根さん、いや麻紀さんは抱える。クロネも彼女に懐いているようで、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「やっぱり、クロネはコーキの守護霊なんだねっ」
彼女が笑う。
猫の誘惑 鶯埜 餡 @ann841611
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