第10話「突撃」
突撃
『××月 ××日 ××時 ××分
録音件数が三件です。
――――プー
あっちゃん、やっぱり繋がらなかったね。
この戦争中、ボク、あっちゃんの声何回聞いたかな?
……一回も聞いてないんじゃないかな。
いつでもどこでも繋がるのに、なんでこんなことになるんだろう。
もう、今すぐ突撃が始まるんだ。話してるヒマない。
……だから、話さない。話せない。
でも通話は切らないからね。
録音時間の制限は10分だったね。……文字通りのじゅうぶんか。
10分あったら、足りる足りる。
あっちゃん、ちゃんと聞いてね。
それで、すぐに忘れてくれていいから。
……もう突撃開始だ。じゃあね。
――行くぞみんな! 走れぇぇぇ!!
モタモタすんな!! のろい奴から狙われるぞ!!
障害物を目で探しながら走れ! なにもないところに出るな!
あの機関銃陣地をつぶすぞ……機関銃、制圧射撃!! あいつらに頭を出させるな!!
二人、俺についてこい! 側面に回るぞ! 手榴弾は残ってるな!!
……よし、あいつらに手榴弾を投げ込んでやれ! さん、に、いちで……おい、まだ投げるな!!
ピンを外した奴を落とすんじゃない! くそっ……間に合え!
……偶然いいタイミングだったな、手榴弾、あいつらの真上で爆発しやがった……幸先いいぞ! 分隊、総員前進! 止まるな! 走ってるうちは死んでないんだ! 進め!
やっぱり鉄条網だらけだな……ワイヤーカッター、大型持って来い!
俺が切る! 援護しろ!
うわっ! どこから狙ってるんだ……前から撃たれまくってるじゃねぇか!
機関銃手、もっと撃て! 弾残したまま死にたいか!
くっそ頑丈に作りやがって……! こんなの切るだけで死んでたまるか!
……よし、切れた……もうここから入るしかないな! 他を切ってるヒマなんかない! 行くぞ! 俺に続け!
制圧射撃! 弾もっとばらまけ! 固まってもいい! 切ったところを一気に抜けてこい!
ああ……他の分隊はどうなってんだ、砂か爆発かわからないけど、視界が煙だらけて全然わからないな……。
とにかく進むぞ! 前進しかないんだからな!
……ああ、部隊長、まだ生きてたか。先頭に立ってるのに本当に運がいいな。
あの俺をよく殴った先輩もいつの間にか立派な部隊長になって……ってそんなこと思ってるヒマないか! 部隊長、ここで俺の分隊が合流しま……うわぁ――――!!
……ゲホッ……今の、迫撃砲かなんかかな。弾が真上から来やがった……部隊長、部隊長!?
うわ……頭が破片でズタズタだ……って、まだ生きてる。部隊長、大丈夫ですか!?
……ああ、もう虫の息だ。部隊長、スマホ預かりますね。故郷に送りますから……って部隊長、ロック解除はどうするんです? いや、最後の言葉なんていいんです! ロック解除の方法教えてください!!
……ああ、死んじゃった。
ロック解除、指紋認証だってさ……部隊長の指切ってくわけにはいかないし、スマホはショップに持ち込もう。事情話せばロック解除してくれるだろう。
分隊、どれだけ生き残ってる?
……ってもう五人だけか。他の六人は……どこかで倒れてるのか……。
もうとにかく前進するだけだ、他のことは考えるな。
機関銃手もやられちまってるな。制圧射撃には頼れない……まあいいか、敵の塹壕は目の前だ。
総員、着剣! 敵塹壕に飛び込むぞ。
もう、目の前で動いているのは全部突け。
どうせ味方なんかいないんだ。
さあ行くぞ……ばか! 頭を上げすぎだ! 下げろ!!
うわぁぁぁぁぁ!!
……近くで榴弾か何かが爆発した。敵の砲、こんな間合いで撃ってくるのか……。
おい、みんな返事し……ちくしょう、誰も動いてないじゃないか。
みんな死んじまった。
お前らのスマホも預かるぞ。どうせみんな、遺書を中に書いてるんだろう。
あ……クラウドサーバにアップしておけば、本体がなくても遺書も読めるんだ!
なんでこんなことに気づかなかったんだ! おかげで何台もスマホ持つハメになったじゃないか!
……もう遅いな、この余計なスマホ持って行かなきゃ。
行けるところまで行くぞ……!!
――ピ――
――録音時間の上限を超えました、録音を終了します。
――録音された内容の再生が終わりました。残り録音件数、二件です』
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