第8話「飢餓」


『××月 ××日 ××時 ××分

 録音件数が一件です。


 ――――プー


 …………。

 …………。

 あっちゃん……

 お腹……空いた……。

 声、出てるかな……。


 この島に、上陸してから……もう、一ヶ月……。

 補給が……ない……。


 海は敵の船だらけで、味方なんか来ない……。

 食べ物が届かない……。


 ボクたちは、ジャングルに逃げ込んでなんとか……生き残ってます。

 なにもないところにいたら、海と山の両方から大砲でどっかんどっかん撃たれて……全滅しちゃう。


 手をこまねいて、ジャングルの中でジッとしているだけでも、千人の兵隊はごはんを食べる……。

 持ってきた食料は、もう、全部なくなっちゃった……。

 今は、ジャングルで採れる食べ物をとにかく採っているけれど……少なすぎる……。

 千人のお腹を満たすには、このジャングルは貧しすぎて……それも、もうすぐ全部食べ尽くしちゃう……。


 ボクをビンタするのが趣味だったあの先輩も、今、とっても大人しいんだ……。

 部隊長になってえらくなったっていうのに、全然元気ない。

 ボクも痩せちゃったなぁ……。


 スマホを充電する電気も……ない。

 電源入れるの、何日ぶりかな……。


 とにかくボクたちに補給をしないと全滅するっていうんで、海軍ががんばってくれたけど……ダメだった。

 味方の艦が目の前でどんどん沈んで行くのを見て、思わず笑っちゃいました。

 仲間が頬を叩いてくれて、それで正気に戻ったけど……。


 みんな、この島に向かう前の観光気分が嘘みたいな落ち込みよう。

 上陸した直後からほとんど戦ってないのに、全滅しそうになってる……。


 ああ、もうスマホの電池、大事にしないといけないんだ……切るね。

 ……あっちゃんの作ったカレー、また食べたい。

 また食べられるかな……。


 ――ピ――

 ――録音された内容の再生が終わりました。残り録音件数、0件です』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る